日鉄がUSスチール買収「禁止命令」の無効を訴え法廷闘争を選択

政治的思惑に翻弄される

 日本製鉄(橋本英二会長)が目指す「グローバル粗鋼生産量1億トン」、「連結事業利益1兆円」達成は遠のくのか─。

 日鉄による米鉄鋼大手・USスチールの買収問題は厳しい状況を迎えた。買収を経済安全保障の観点で審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)が結論を出せなかったが、2025年1月3日、ジョー・バイデン大統領は「禁止命令」を出した。

 買収問題に対しては、バイデン大統領はかねてから反対する意向だと伝えられていた他、次期大統領のドナルド・トランプ氏も強硬に反対。

 それは政治的な影響力を持つUSW(全米鉄鋼労働組合)会長のデービッド・マッコール氏が強い反対姿勢を示してきたからだ。

 ただ、年末には遅まきながらではあるが、地元などから日鉄の買収計画に対する支持の声も表に出るようになっていた。USスチールの本拠、ペンシルベニア州内の自治体の市長など20人が連盟で支持を表明した他、買収を支持するUSスチールの従業員が集会を行うなどした。

 だが、民主党の支持基盤であるUSWの意向を、バイデン氏は無視できないのではないかという見方は根強かった。

 買収が阻止された場合、日鉄が打つ手はいくつか想定されていた。

 1つは買収計画からの撤退。この場合、日鉄のグローバル戦略は練り直しを余儀なくされる。日鉄が買収に踏み切ったのは、米国が世界でも数少ない鉄鋼の成長市場であること、USスチールが「脱炭素」に必要な最先端電炉を持っていること、「水素還元製鉄」に必要な高品質鉄鉱石鉱山を保有していることなどが理由。米国を再攻略するための手立てを考える必要がある。

 活用する必要があるのは、ライバルでもあるアルセロール・ミタルとの合弁会社で、米アラバマ州で自動車用鋼板を製造するAM/NSカルバート社。USスチール買収成立の暁には合弁会社の株をミタルに譲渡するとしていたが、撤退となれば継続される。ただ、一度入った"亀裂"を修復できるかは予断を許さない。

 アルセロール・ミタルとは、もう1つの成長市場・インドで同国の鉄鋼4位を共同買収しており、今後の成長に欠かせない。

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 だが、日鉄はバイデン氏、CFIUSによる「違法な政治介入」だとして訴訟を提起した。10年前に、中国の三一重工が、当時のバラク・オバマ大統領とCFIUSを提訴し、勝訴した事例はあるが、年単位での時間を必要とする。

 USスチールの業績は悪化しており、買収が成立しなければ高炉閉鎖やリストラを余儀なくされるとの見方は強い。同業で、USW会長のマッコール氏が勤務経験のあるクリーブランド・クリフスが買収するにしても、日鉄のような技術は持たないのが弱み。

 国家の論理が経済をおびやかす時代。企業も覚悟が求められる。