エンジニアリングの世界では、精度(測定の確かさ)はとても重要になる。最先端の電子機器の品質保証や、複雑なシステムのデバッグ時でも、測定精度がプロジェクトの成否を左右するといえる。そこで重要になるのが、オシロスコープの垂直軸確度の概念だ。垂直軸確度は、電圧の読み取り値が実際の測定値にどれだけ近いかを意味する。高い垂直軸確度を実現するためには、アナログ/デジタル・コンバータ(ADC)のビット数とオシロスコープのノイズフロアの2つが重要である。

ADCビットの役割

オシロスコープの水平軸はタイムベース(1ディビジョンあたりの秒数、s/div)で、垂直軸は電圧(1ディビジョンあたりの電圧値、V/div)を示す。

垂直軸確度とは、オシロスコープが信号の電圧をどれだけ正確に表示できるかを表すものであり、視覚的にはっきり見えることと、正確な測定のために不可欠な要素である。つまり、オシロスコープの画面に表示される電圧が、実際の信号電圧に近ければ近いほど、垂直軸確度は高いと言える。

最適な測定値を得るには、ADCビット数が高く、ノイズフロアが低いオシロスコープが必要になる。ADCビット数が高いほど垂直分解能は向上し、より信号を細かく見ることができる。さらに、ノイズフロアが低いほど、オシロスコープ自体が信号に与える影響を抑えることができる。この組み合わせにより、オシロスコープは信号を最も正確に表示し、測定に影響を与える可能性のある歪みやノイズを最小限に抑えることができる。

より詳しく説明すると、8ビットADCを備えたオシロスコープは、28=256なので、アナログ入力を256段階の変換レベルにエンコードできる。ビット数が増えるごとに、変換レベルの数が2倍になるので、9ビットは512レベル(29=512)、10ビットは1,024レベル(210=1,024)になる。

14ビットADCを搭載したオシロスコープは、アナログ入力を16,384レベル(214=16,384)にエンコードできるため、12ビットADCオシロスコープの4倍、8ビットADCの64倍の分解能になる。このように分解能が高くなることにより、オシロスコープは信号の微細な変化を捉え、より正確な波形の表示が可能となる。

ここで、垂直軸設定が100mV/div、8ディビジョンのオシロスコープで考えてみる。オシロスコープのフルスケールは800mV(8div×100mV/div)に相当するので、8ビットADCでは、フルスケール(800mV)は256レベルで分割され、1レベルあたり3.125mVの分解能となる。これに対し、14ビットADCは同じ800mVを16,384レベルに分割し、1レベル当たり48.8μVの分解能を達成する。分解能が向上することで、図1に示すように、エンジニアは、ごく微小な信号の変化を検出して測定できる。

  • ADCのビット数が増加すると、変換レベルも増加する

    図1. ADCのビット数が増加すると、変換レベルも増加する。その結果、垂直分解能が高くなり、エンジニアは信号のより小さな変化を測定できる

低ノイズフロアの重要性

垂直軸の確度にADCのビット数が高いことは不可欠だが、それだけが唯一の要素ではない。オシロスコープのノイズフロアも重要な役割を果たしている。ノイズフロアとは、オシロスコープ自体が発生する固有のノイズのことで、測定中の信号に干渉し、不正確な測定値の原因につながる可能性がある。

オシロスコープを含むすべての電子機器は、ある程度のノイズを発生するが、そのノイズは少なく小さいほどいい。ノイズフロアが低ければ、オシロスコープが信号に与える影響が少なくなり、より正確な測定が可能になる。オシロスコープは、ノイズフロアより小さな信号の詳細は表示できない。わずかなノイズでも測定値を大きく歪めてしまうような、非常に微小な電圧を測定する場合にノイズフロアが特に重要になる。

例えば、図2ではオシロスコープで53mVの信号を測定している。2mV/divの場合、このオシロスコープのノイズフロアは50μVRMS未満であり、このオシロスコープを使用すれば、ノイズフロアが低いため、小さな53μVの信号を捉えることができる。この信号は、ノイズフロアが100μVRMSを超える一般的な汎用オシロスコープではノイズに埋もれてしまうだろう。

  • 他の汎用オシロスコープではノイズ・フロアに埋もれてしまう

    図2. <50 μVRMSのノイズフロアを持つオシロスコープは、他の汎用オシロスコープではノイズ・フロアに埋もれてしまう小さな53μVの信号を確認できる

高ADCビットと低ノイズフロアの組み合わせ

高いADCビット数と低いノイズフロアの組み合わせが、最高の垂直軸確度を実現する。これにより、オシロスコープは最も正確に信号を表示し、エンジニアは高精度な測定が可能になり、コストのかかるエラーを回避できる。

例えば、14 ビットのADCを備え、50Ω入力で2mV/div、1GHzの帯域幅で50μVRMS未満のノイズフロアを備えたオシロスコープであれば、高い垂直軸確度で、信号の微小な変化も検出できる。この違いは、エンジニアの洞察力、理解力、デバッグ力、特性評価能力に多大な影響を与える。さらに、オシロスコープの測定結果が不正確であれば、開発サイクル時間や製造品質、さらには部品選定のリスクが高まる可能性がある。エンジニアは、可能な限り優れた洞察力と測定確度を提供するツールとテクノロジーを頼るべきだ。

まとめ

すべてのオシロスコープが同じではないことを認識しなければならない。エンジニアは最高の垂直軸確度を得るために、最も高いADCビットと低いノイズフロアを組み合わせる必要がある。この組み合わせにより、オシロスコープは信号を正確に表示し、測定に影響を与える歪みやノイズを最小限に抑えることができる。高い垂直軸確度は、正確な測定、エラーの低減、時間とリソースの節約に不可欠になる。垂直軸確度の高いオシロスコープに投資することで、エンジニアは測定値を信頼でき、より効率的なデバッグが可能になる。

本記事はKeysight Technologiesが「EDN」に寄稿した記事「Not all oscilloscopes are made equal: Why ADC and low noise floor matter」を翻訳・改編したものとなります