台湾メディアによると、台湾半導体サプライチェーン関係者情報としてTSMCが2nmプロセスを用いた顧客向けLSI試作サービス「TSMCサイバーシャトル」を、2025年1月より新竹科学園区(竹科、新竹サイエンスパーク)にあるグローバル研究開発(R&D)センターで開始する見通しだという。また、4月からは2024年4月より設備搬入を開始し、同年6月よりリスク試験(試作)進めてきた竹科・宝山のFab20に移転してサービスを拡大するという。
TSMCの2nmプロセスの最初の顧客はAppleと見られ、2026年秋に発売するであろう次々世代iPhoneに搭載されると思われるプロセッサ「A20」に適用され、先端パッケージングのシステム・オン・インテグレーテッド・チップス(SoIC)で製造される見込みだと報じられているが、サイバーシャトルはそれとは別に、マルチプロジェクトウェハ(MPW)を使った試作サービスで、複数の顧客のチップを同じテストウェハ上で製造することで、フォトマスクなどのコストを各社で分担する形で、短期間かつ低コストでの少数試作、検証を提供するもの。同社は3nmまではFinFETを採用していたが、2nmではGAAへとトランジスタ構造を変更することもあり、開発・製造コストの上昇が課題とされていた。
関係者によると、TSMCの2nmの受託生産価格はウェハ1枚当たり3万ドルを超えており、iPhone向けプロセッサのコストは85ドルと、3nm製品の50ドルから上昇する見込みだという。ただし、Appleのほか、Intel、AMD、MediaTek、Qualcomm、Alchipなどすでに複数社がTSMCの2nmを活用する予定だという。
2025年の2nm量産に向けて高雄工場にも製造設備の搬入を開始
2nmに関しては、TSMCが台湾南部の高雄に新設した300mmファブ(Fab22 Phase1)が、11月末に設備設置の式典を非公開の社内イベントとして行ったことが、高雄市政府経済発展局の広報より判明している。同ファブは、高雄での同社初の300mmファブであり、2025年の2nm量産に向けた製造設備の設置が予定よりも6か月以上早く始まった模様で、関係者によれば同工場は2025年第2四半期に試験生産を開始する予定のほか、建設中のFab22 Phase2も2025年下半期中に設備の搬入を開始する見通しだという。
式典に出席した高雄市長の陳奇梅氏は、「TSMCの存在は高雄市全体の産業変革を推進することに貢献する」と述べたほか、高雄市政府経済発展部長の廖泰祥氏は、「TSMCの工場建設と工業団地内の公共工事が同時に進行しており、高雄市政府としてもTSMCによる最先端技術の早期量産を支援している。高雄市政府とTSMCは、高雄市における先進的な半導体製造プロセスの推進を加速し、世界で最も影響力のある半導体産業クラスターを構築するために引き続き緊密に連携していく」と述べたという。
TSMCの台湾での2nm生産拠点は新竹・宝山、高雄、台南
TSMCは、台湾での2nm製造を、台湾北部の本社近くの新竹・宝山工場と南部の高雄工場の2か所で予定しており、どちらも2025年に量産を開始する予定である。すでに宝山工場はリスク生産中であり、量産に向けた先頭に立っている。また、2nmに対する需要が堅調なこともあり、いずれ南部科学園区(南科、南部サイエンスパーク)楠梓園区(高雄市楠梓区)の台南工場も2nmの生産を開始する見通しで、台湾南部に位置する台南と高雄の両工場が連携して最先端プロセスによる量産を行うことになる模様である。台湾外では2028年ごろより米国アリゾナ州で2nmを生産する可能性がある。
高雄工場は当初、成熟プロセス向け工場として計画されていたが、2023年8月の取締役会の決定を受けて2nm対応へと方向転換。当初のスケジュールでは、2025年第3四半期までに製造装置を設置する予定であったが、2nmに対する顧客の需要の高まりを受ける形でスケジュールが前倒しになった模様だ。
歩留まりはすでに60%超えに到達か?
TSMCは公には試作品の歩留まりについて明らかにしていないが、2nmを用いた試作は順調に進んでおり、予定通り2025年からの量産が開始されることを繰り返し強調してきた。懸念される歩留まりについても、台湾メディアがサプライチェーン関係者情報として、新竹・宝山ファブでのリスク生産段階で、すでに60%を超す状態を達成。2025年の量産を予定通り開始できるめどが立っていることを伝えている。同社は、歩留まりが量産レベルに達した段階で、その経験を高雄ファブに移転し、2工場体制で量産対応に当たるが、サプライチェーン関係者によると、新竹・宝山の2nmファブは試作のための生産を目的としたもので、将来的には2nmの量産は高雄工場が担うと見られるという。
TSMCのC.C.Wei会長は2024年第3四半期の決算発表にて、2nmの需要が3nmを上回っており、生産能力をさらに高めていく必要があるとの予測を示している。
高雄工場はPhase5まで計画
高雄工場(Fab22)のPhase1は2025年より正式に量産が開始される見通しだが、次のPhase2もすでに建設が進行中。加えてPhase3も2025年には着工予定で、Phase4ならびにPhase5も最近、高雄市政府に工場建設の申請を行ったとされており、現時点で少なくとも5つのファブが建設されることが計画されているようで、TSMCにとっての最先端半導体製造拠点に位置づけされることとなるようである。
,A@TSMCの半導体前工程工場の分布図|