米国商務省産業安全保障局(BIS)は、中国における次世代の高度な兵器システムやAI、HPCに仕様できる先端プロセスの半導体製造能力に対する一連の規制強化を12月2日(米国時間)に発表した。
この新たな規則には、半導体の開発または製造に使用される24種類の半導体製造装置と3種類のソフトウェアや、HBM、コンプライアンスと転用に関する懸念に対処するための新しいガイダンス、中国政府の軍事力近代化の推進に関与する中国のツールメーカー、半導体工場、投資会社を網羅する140のエンティティリストの追加と14の修正、および以前の規制の有効性を高めるためのいくつかの重要な規制変更が含まれている。
ジーナ・レモンド米国商務長官は、「今回の措置は、バイデン・ハリス政権が同盟国やパートナーと連携し、国家安全保障にリスクをもたらす先進技術の生産を中国が国産化する能力を阻害するための的を絞ったアプローチの集大成である。輸出管理のさらなる強化は、米国のより広範な国家安全保障戦略を実行する上で商務省が果たす中心的な役割を強調するものだ。バイデン・ハリス政権ほど、輸出管理を通じて中国の軍事近代化に戦略的に取り組むことに厳しい政権はない」と述べ、現政権の中国政策の厳しさをアピールした。
今回の規制強化は、米国の国家安全保障に重大なリスクをもたらす先進技術(先端プロセス半導体やその製造に使用される装置など)の生産を中国が国産化する能力を制限することを目的としている。BISによると、これらのアクションは、次の2つの目的を達成するためのものであるとしている。
- 戦争の未来を変える可能性のある中国の高度なAIの開発を遅らせること
- 中国独自の半導体エコシステムの開発を阻害すること
これらの目的に沿って、BISは次のようないくつかの規制措置を実施している。
- 特定のエッチング、堆積、リソグラフィ、イオン注入、アニーリング、計測および検査、洗浄ツールなど、先端ノードの集積回路を製造するために必要な半導体製造装置に対する新しい規制
- 高度なマシンの生産性を向上させたり、それほど高度ではないマシンで高度なチップを製造できるようにする特定のソフトウェアを含む、高度なノードの集積回路を開発または製造するためのソフトウェアツールに対する新しい規制
- HBMに関する新規制。HBMは大規模なAIトレーニングと推論の両方に不可欠であり、高度なコンピューティングの主要コンポーネントである。新しい規制は、高度なコンピューティング外国直接製品(FDP)規則に基づいて EARの対象となる米国産HBMだけでなく外国で製造されたHBMにも適用される
- エンティティリストに140の中国企業を追加し、さらに14の修正を加えた。これには、米国と同盟国の国家安全保障にリスクをもたらす中国の先進的なチップ目標を推進するために北京の中国政府の要請で活動している半導体工場、ツール会社、投資会社が含まれる
- 外国直接製品としての半導体製造装置(SME)規制の新設。外国で製造された商品がマカオまたは中国の目的地に出荷されることがわかっている場合、特定の外国で製造されたSMEおよび関連品目に対する規制。米国原産の集積回路を任意の量含む特定の外国製SMEおよび関連品目にも規制を拡大する
- 新たなソフトウェアおよび技術規制:マカオまたは中国の目的地で生産される先端ノードの集積回路の設計にこれらの品目が使用されることがわかっている場合の、電子計算機支援設計(ECAD)および技術計算機支援設計(TCAD)ソフトウェアおよび技術に対する規制。ソフトウェアキーに関する既存の規制に関するEARが明確化された。特定のハードウェアまたはソフトウェアの使用へのアクセス、または既存のソフトウェアおよびハードウェアの使用ライセンスの更新を許可するソフトウェアキーの輸出、再輸出、または国内での譲渡に、輸出規制が適用されるようになった
2022年10月、BISは暫定最終規則(IFR)を公表し、軍事用途に不可欠な特定の高性能半導体の中国の購入と製造の両方の能力を制限した。輸出管理の有効性を継続的に評価するというBISの取り組みの一環として、BISは 2023年10月と2024年4月に更新された規則を発表した。今回の規則は、これらの取り組みに基づくものとなる。
米国政府が規制追加する背景
米国政府が対中規制を強化する背景について、BISは「中国の指導部は、ICが国家安全保障と軍事力にとって重要であると述べ、独自の自給自足の半導体エコシステムを構築することの重要性を強調してきた。中国共産党の半導体戦略は、中国の軍事力近代化、大量破壊兵器(WMD)開発、および国境を越えた後退を促し人権を抑圧する統制アジェンダを推進することを意図しており、米国とその同盟国の安全保障を脅かし、その価値観を損なおうとしている」と説明している。
BISの措置は、2018年の輸出管理改革法およびその実施規則である輸出管理規則(EAR)の権限に基づいて行われており、今回の措置は12月2日に即日発効した。
中国政府は重要鉱物の禁輸で対抗
中国政府商務部(日本の経済産業省に相当)は、米国の対中半導体規制強化にただちに批判して、「この措置は半導体製造装置やメモリなどの対中輸出規制を強化し、中国の136の事業体をエンティティリストに追加、中国と第三国の貿易に乱暴に干渉する典型的な経済脅迫行為であり、非市場的なやり方である。米国は言行が一致せず、国家安全保障の概念を絶えず拡大解釈し、輸出規制措置を乱用して一方的ないじめを行っており、中国は断固反対する。半導体産業は高度にグローバル化している。米国による規制措置の乱用は各国の通常の経済・貿易往来を阻害し、市場ルールと国際経済・貿易秩序を大きく損ない、グローバル産業チェーン、サプライチェーンの安定を著しく脅かしている。米国企業を含む世界の半導体業界が深刻な影響を受けている。中国は必要な措置を取り、自らの正当な権益を断固として守る」との声明を発表している。
また中国商務部は、関連する軍民両用品(デュアルユース)の米国への輸出管理を強化することを以下のように決定したと12月2日に発表し、同日より発効した。
- 米軍のユーザーまたは軍事使用のための軍民両用品の輸出を禁止する
- ガリウム、ゲルマニウム、アンチモンおよび超硬材料の米国への輸出は原則として認めない。米国に輸出されるグラファイトのデュアルユースアイテムのエンドユーザーおよび最終用途の審査を厳格化する
中国で作られた関連軍民両用品目を米国に譲渡または提供することにより、上記の規定に違反した国または地域の組織および個人は、法律に従って法的責任について調査の対象となると中国商務部は警告している。これは日本などの第三国経由による米国への輸出も禁じられる。
中国は、2023年8月にガリウムとゲルマニウムを、同12月にはグラファイトの輸出を許可制にしたが、今回の措置は、その取り組みをさらに一段と踏み込んだものとなる。ガリウムおよびアンチモンの2023年の世界生産量における中国の割合は、それぞれ9割超、5割を占めており、このような事態が長期化すれば、米国のサプライチェーンへの影響が懸念される。