スペースデータと宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月31日、新たな発想の宇宙関連事業創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションハブパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みのもと、「宇宙デジタルツイン」に関する共創活動を開始したことを発表した。
これまで宇宙空間の一大拠点として世界各国の政府や宇宙機関が運営を続けてきた国際宇宙ステーション(ISS)は、2030年以降にその役目を終える予定となっている。そのため以降の地球低軌道(LEO)では、民間事業者による“商業宇宙ステーション”の開発・運用が想定されている。
そんな民営の宇宙ステーションでは、衣食住、教育、エンターテインメントなどさまざまな産業の参入機会が想定されているが、宇宙環境特有の条件への対応には専門知識や経験が必要であるうえ、軌道上での実証にはコストや時間がかかるなど、新規参入を検討する中での高いハードルが残されている。
そうした中、宇宙分野の技術とデジタル技術の融合により“宇宙の民主化”の実現を目指すスペースデータは、宇宙ステーションなどの宇宙環境をデジタル空間に再現する宇宙デジタルツインの開発を進めている。これはビジュアルだけでなく、微小重力や風量、温度、湿度、照度をはじめとする宇宙特有の条件を再現した環境だといい、このデジタルツインにアクセスすることで、宇宙環境の特性を具体的に把握し、宇宙での挙動を繰り返し試行することが可能になるとする。
そして今回開始された共創では、JAXAがISS「きぼう」日本実験棟で取得した船内環境データや微小重力環境を、スペースデータが開発する宇宙デジタルツインに実装するとのこと。またこれをオープンソースとして公開することで、事業アイディアや技術アイディアの数々をデジタル上で気軽に試すことを可能にするとしている。
両者は同共創が有する価値として、“非専門家”であっても多様なアイディアを“低コスト”で“容易に”試すことが可能になる点を挙げ、限られた専門家のみがアクセスできていた宇宙を、誰もがアクセス出来る環境へと開放するとした。
なお、「きぼう」日本実験棟で活躍する船内ドローン「Int-Ball」をデジタルツイン上に再現される予定で、宇宙ロボットのシミュレーション環境としても有効とのこと。これにより、軌道上での事業実施に向けた検討作業のコストやスケジュールを大幅に短縮し、事業の予見性を向上させるとする。また、宇宙への打ち上げを必要としないデータ利用事業(ゲーム・配信・放送事業、バーチャル宇宙旅行など)の分野でも、宇宙デジタルツインの利用可能性を探索するという。
スペースデータ 代表取締役社長の佐藤航陽氏は、「JAXAとの協業により、宇宙環境を再現するデジタルツイン技術をオープン化し、宇宙へのアクセス手段を持たない多くの方々に『宇宙利用の機会』を提供する」とし、「宇宙がインターネットのように誰もが活用できる場となる未来を目指す」とコメントを残している。
またJAXA 有人宇宙技術部門事業推進部参与の松村祐介氏は、「デジタルツインから予想もしない事業が生まれることを、10年後に、ここから宇宙の経済圏が始まったと振り返られればと願っている」とコメントしている。