横浜国立大学(横浜国大)は10月23日、生体適合性の高い液体金属である「ガリウム-インジウム共晶合金」(EGaIn)を分散したコロイド溶液中で、レーザー光を走査する「レーザー誘起バブル」によって粒子を集積化させる「バブルプリント法」を用いることで、自由度の高い高精細な微細パターンを作製することに成功したと発表した。

同成果は、横浜国大の向井理 特任助教、同 上野和英 教授、同 丸尾昭二 教授らの研究チームによるもの。詳細は、ナノマテリアルに関する全般を扱う学術誌「Nanomaterials」に掲載された

IoTの進展に伴い、ウェアラブルデバイスを中心に曲げても利用可能なフレキシブルデバイスの実用化が求められている。そうしたフレキシブルデバイスの配線材料として期待されているのが「液体金属」だという。液体金属を用いた配線技術としては、マイクロ流路に流し込む方法や、ナノサイズの凹凸を持つスタンプを使うナノインプリント法などがあるが、マイクロ流路に流し込む場合は配線サイズが100μm程度に制限され、ナノインプリントでは数μmの配線サイズが実現できるものの、テンプレートの製作コストが高いために自由な配線パターンを作るのが困難とされている。

そうした課題を踏まえて研究チームは今回、液体金属を用いた高い自由度を持つ微細配線パターンの作製手法として、100mm/sを超える高速描画や、サブマイクロメートルサイズの高精度パターン形成が可能なレーザー誘起バブルを用いた粒子集積技術であるバブルプリント法に着目。室温で液体の性質を持つ金属材料EGaInを用いて、微細配線を作製し、その機能を実証することにしたという。

バブルプリント法は光放射圧を利用したレーザー加工の一種で、ほかのタイプのレーザー加工法よりも汎用性が高く、多様な粒子を高速に集積できる手法として知られる。同手法では、レーザー光を基板あるいは液体に照射・吸収させて微小な泡を発生させ、その泡の周囲に生じる流れを利用して粒子を凝集させるというものだが、これまで同手法は、固体粒子のパターン形成のみが実証されており、液体コロイド粒子の配列は行われていなかったという。そこで今回の研究では、EGaInのコロイド粒子(直径0.7μm)をガラス基板上にパターニングして微細配線の作製が試みられた。

研究チームによると、従来のバブルプリント法のレーザー光を用いて微小な泡を発生させて金属薄膜上に導電性パターンを作製しても、短絡の問題により配線形成は困難だという。そこで近年になって開発されたのが、レーザー光を粒子に集光させて粒子の吸収によってバブルを発生させるという手法で、導電性粒子を用いた配線作製なども実証されていた。

EGaInの特徴は、金属ならではの高い導電性(3.4×106S/m)を維持しつつ、液体であるため屈曲によって破断する恐れがないことで、フレキシブルやストレッチャブルデバイスの配線に適しているという。今回の研究では、従来の固体粒子ではなく、EGaInのコロイド粒子にレーザー光を集光させ、発生させたバブルが用いられ、「ダンベル型」や「YNU」といった文字パターンを自在形成することに成功したという。

  • バブルプリント法を用いた液体金属の描画の模式図

    (上段)バブルプリント法を用いた液体金属の描画の模式図。(左下)描画されたダンベルモデル。(右下)YNUモデル (出所:横浜国大プレスリリースPDF)

研究では、EGaInは酸化により絶縁性の酸化被膜が形成され、導電性が低下する課題を抱えていたことから、卑金属としてEGaInの酸化被膜が使用され、硝酸銀水溶液を貴金属イオン溶液として「ガルバニック置換」を実施。酸化被膜が高い導電性を有する銀に置換されたことで、導電性の改善に成功したという。

  • 液体金属配線のガルバニック置換の模式図

    (上)液体金属配線のガルバニック置換の模式図。(下)発光ダイオードの点灯から導電性が確認された (出所:横浜国大プレスリリースPDF)

最適なガルバニック置換条件が調査された結果、約1.5×105S/mという導電性を持ちつつ、曲率0.02m-1まで曲げても導電性が維持されることが確認されたという(作成された配線は、実際に発光ダイオードが点灯した)。また、レーザー強度を制御することで配線幅を調整でき、最小で3.4μmの微細配線を得ることにも成功したとする。

なお、研究チームでは今後、フレキシブル基板を用いることにより、さらなる柔軟性や伸縮性の向上が期待されるほか、有機デバイスなどの電子素子と組み合わせることで、ウェアラブルセンサや医療デバイスなど、多様な応用が見込まれるとしている。