米コーレルは2022年、ブランド名をAlludoに刷新した。AlludoにはMac向け仮想化ソフト「Parallels」、デザインツール「CorelDRAW」、生産性向上ツール「MindManager」、圧縮解凍ソフト「WinZip」といった日本でもおなじみの製品が含まれる。
コロナ禍で生まれたブランドであるAlludoがどう成長してきたのか。今回、Alludo 最高経営責任者のクリスタ・クォールズ氏に、Alludoブランドの成長、Parallels事業の動向、日本市場における展望などについて聞いた。
Walt DisneyやOpenTableの要職を歴任
クォールズ氏は現職に就く前、OpenTableのCEO、Nextdoorの最高業務責任者 (CBO) 、Walt Disney CompanyのInteractive Gamesの上級副社長などを歴任しており、実に多彩なキャリアを歩んでいる。
「投資銀行でビジネスを学び、ビジネススクールを経て、シリコンバレーでテクノロジーにどっぶり漬かりました。所属していたスタートアップがディズニーに買収されて、その時、ゲーム市場において日本は重要な市場と学びました」と、クォールズ氏は自身のキャリアについて語った。
クォールズ氏は、ディズニー時代に、多くの読者の方が知っているであろうゲーム『LINE:ディズニー ツムツム』を開発した。「日本市場は重要ですが、他の国でうまくいくとは限りません」とも同氏は話した。
OpenTableはコンシューマービジネスであり、「日本ではワンダーテーブルと共に、チャレンジャーとして市場を開拓しました。これまで関わってきたビジネスとはアプローチが異なりました」とクォールズ氏。同氏はBtoB、BtoCの双方において、日本市場に関わってきたことになる。
Alludoは製品全体を統括する傘、社員に対するメッセージの意味も
こうしたキャリアを武器に、クォールズ氏はAlludoブランドをどのようにして成長させていくのだろうか。
クォールズ氏によると、Alludoは製品全体を統括する傘のようなもので、その下に各製品がぶら下がっており、Alludoのビジョンを活用して各製品の拡大を図っていくという。
また、クォールズ氏は「Alludoには、All you do、つまり『あなたのことすべて』という意味が込められており、社員に対するメッセージにもなっています。Alludoというブランドの認知度を上げて、人員の採用にも力を入れて行きたいです」と話す。
クォールズ氏は、社員のエンゲージメントを高めるため、各リージョンが集う日や会社全体の休業日を新たに設けるなどの取り組みを行っているそうだ。
パンデミックで爆発的に伸びたParallels
そして、Alludoビジネスの業績はどうなっているのだろうか。クォールズ氏は、「パンデミックにおいて、リモートワーカーにアプリケーションを提供するため、Parallelsが爆発的に伸びました」と述べた。
仮想化ソフトといえば、気になるのが、BroadcomによるVMwareの買収だ。小誌でもお伝えしているが、旧VMwareと競合しているベンダー各社は商機とみて、販促活動を繰り広げている。クォールズ氏は、VMware買収の影響について、次のように説明した。
「BroadcomによるVMwareの買収は、Parallelsのビジネスにポジティブな影響をもたらしました。Broadcomは規模の大きな企業に集中しているため、ブルーオーションが起きている。だからこそ、私たちは日本のビジネスに注力しているのです」
パートナーからは、デスクトップ仮想化ソフト「Parallels Desktop」とリモートアプリケーションサーバ「Parallels RAS」を組み合わせての提供などについて、問い合わせが増えているという。
クォールズ氏に、Parallelsの強みについて、あらためて尋ねたところ、以下のような答えが返ってきた。
「Parallelsはとにかくシンプルに使えて、TCOが低いです。さらに、パートナーにフレキシブルです。競合であるBroadcom、シトリックスがビジネスをシフトしていますが、パートナーはその変化を見ています。そうした状況では、パートナーの頭にParallelsが真っ先に浮かんでもらうことが必要だと考えています」
リモートワークの行く末は?
日本でも、生産性やコミュニケーションの側面から、リモートワークの利用について議論が続いているが、今年9月、米Amazonが来年1月から週5日のオフィス勤務を義務付け、フリーアドレスも廃止すると発表した。Amazonの発表が自社にも影響を及ぼすのではないかと、ヒヤヒヤしている人もいるだろう。
リモートワークはParallels事業の好況の一因でもある。クォールズ氏に、Amazonのリモートワーク廃止についてどう思うか、聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
「Amazonの週5日出社がどれくらいうまくいくか、見届けたいと思います。個人的には、時折一緒に集まることは重要ですが、仕事はどこでもできますし、リモートワークでも生産性を上げることはできます」
ちなみに、コーレルはリモートファーストでやっているとのこと。しかし、「まったく同僚、上司と会わないわけでありません。オフィスが唯一の選択肢ではないのです。それによって、当社は魅力的な職場となっています」とクォールズ氏は語る。
パートナーのニーズに対し柔軟に応えていきたい
クォールズ氏は、今後の展望として、これまで以上にパートナービジネスに注力すると述べた。パートナープログラムにおいては、パートナーのニーズに柔軟性をもって答えることを最優先とする。
「パートナーのビジネスモデルを理解した上で協働しますし、パートナーにとっても当社にとってもメリットがあることに取り組みたいと考えています。そのため、パートナープログラム以上に、社内のチームの育成にも力を注いでいます」とクォールズ氏。
日本では、新潟県上越市にParallels RASを導入するなど、自治体での導入が進んでいるが、クォールズ氏は「ヘルスケア、教育にもチャンスがあると見ています」と語る。
日本で同社の製品の人気が高い理由を聞いてみたところ、クォールズ氏は「日本では、Appleのエコシステムと共に成長してきました。日本企業においてMacの市場が伸びています」という見方を示した。確かに、日本ではiPhoneやMacBookを使っている人が多く、取材の場でもよく見かける。
最後に、クォールズ氏に、女性や若い人へのメッセージを聞いたところ、以下のような言葉をもらった。
「私はこれまで、自分のキャリアの形成を考えて、仕事に励み、チャンスを作ってきました。まだまだ女性のCEOは少ないですが、自分ならできるという人も増えてきています。自分の可能性を信じて、努力して前進してもらいたいです」