昨年11月の米BroadcomによるVMware(ヴイエムウェア)の買収で業界がザワついている。同12月にはVMwareがライセンス販売を終了し、サブスクリプションに全面移行を発表するなど、市場ではVMwareに対する目が厳しくなりつつある。また、IDC Japanの調査によると、仮想化環境の今後の方針について、国内の回答者の71.6%が仮想化環境に何らかの変更を検討しているという結果もある。

これはVMwareからの乗り換えを検討しているという見方もでき、ビジネスチャンスとしてタイミングを虎視眈々と狙うのがNutanixだ。同社はハイパーバイザー「Nutanix AHV」やHCI(ハイパーコンバージドインフラ)を提供している。今回、同社プレジデント兼CEOのRajiv Ramaswami(ラジブ・ラマスワミ)氏、ニュータニックス・ジャパン コーポレートバイスプレジデント 兼 代表執行役員社長の金古毅氏に話を聞いた。

Rajiv Ramaswami(ラジブ・ラマスワミ)

Nutanix プレジデント兼CEO


2020年12月にNutanixのプレジデント兼 CEOに就任。CEO就任以前は、VMwareで製品およびクラウドサービス担当の最高執行責任者、エグゼクティブ・バイスプレジデント 兼 ゼネラルマネージャーを務め、ネットワーキング&セキュリティ事業を率いた。VMware以前は、Broadcomのインフラストラクチャおよびネットワーキングを担当する上級統括責任者 兼 ゼネラルマネージャーとして、データセンター、エンタープライズおよびキャリア・ネットワーキング業界のリーダー企業としての地位確立に貢献。


また、シスコではスイッチング、データセンター、ストレージ、光ネットワーキングの分野で数十億ドル規模の製品ラインを統率するゼネラルマネージャーを務めた。そのほか、Nortel、Tellabs、IBMでリーダー職を歴任。

なぜ、Nutanixが選ばれるのか?

--直近の業績はいかがでしょうか?

ラマスワミ氏(以下、敬称略):2024年第2四半期の業績は好調で、利益予想を7四半期連続で上回り、次期に向けて上方修正もしている。収益は5億6000万ドル、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は前年同期比で26%増の17億4000万ドルとなり、フリーキャッシュフローも生み出し、GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)ベースの営業利益が初めて黒字に転じました。

成長の背景として挙げられることとして3つあります。1つ目は企業がハイブリッド・マルチクラウド環境で事業を展開するようになり、アプリケーションやデータはデータセンターやパブリッククラウド、エッジなど社内の至る所に存在しています。

企業としては、アプリケーションやデータの実行をビジネスに適した場所で柔軟かつ選択肢を持った形で行いたいと考えています。

そのため、当社が企業を支援するうえで役に立っています。マルチクラウド、パブリッククラウド、プライベートクラウドなど、さまざまな環境においてアプリケーションやデータの実行を単一プラットフォームで実現しています。

2つ目は、BroadcomがVMwareを買収したことによる影響です。VMwareはイノベーティブなテクノロジーカンパニーであり、私自身も以前に勤務していました。しかし、Broadcomが買収したことでVMwareが持つ顧客との関係は変化していくでしょう。

つまり、買収以降にBroadcomが加えた変更は、お客さまに影響が出ています。例えば、価格設定の変更したり、パートナーエコシステムに支障が来したり、お客さまに悪影響を与えています。そのような中で、VMwareへの依存度を低減するためにもNutanixこそがベストオプションです。

3つ目は各社とのパートナーシップです。シスコとのパートナーシップは比較的新しいもので、当社の製品を再販しています。長期的な観点でAIはチャンスであり、AI自体がハイブリッドアプリケーションのため、パブリッククラウドやデータセンター、エッジをはじめ、適した場所で実行した方が良いものに分かれます。

昨年9月に当社ではストレージ機能とGPUをサポートして、そこにフレームワークを乗せれば、すぐにAIの開発がスタートできる「Nutanix GPT-in-a-Box」を発表し、AIを実行したい場所で実行できます。

  • 「Nutanix GPT-in-a-Box」の概要

    「Nutanix GPT-in-a-Box」の概要

--先日、企業によるクラウドの採用状況を測定したレポート「Nutanix Enterprise Cloud Index(ECI)」を発表しました。所感を教えてください。

ラマスワミ:世界中の意思決定者1500人に対して調査を行いましたが、回答者の90%はインフラ戦略に関して「クラウドスマート」のアプローチを採用しており、ベストな環境としてハイブリッドのアプローチをとっています。

また、80%の回答者はアプリケーションやデータを管理していくうえで、ハイブリッドIT環境が最も適していると答えているほか、回答者の半数はハイブリッドIT環境の導入がCIO(Chief Information Officer)の最も重要な優先事項として挙げています。

  • グローバルにおけるクラウドの主な傾向

    グローバルにおけるクラウドの主な傾向

一方で、ランサムウェアはさまざまな人にとって懸念となっています。多くの取り組みが行われていますが、データの保護とリカバリが引き続き大きな課題になっています。ランサムウェアを実際に経験した回答者の70%以上が完全に復旧するためには数日間、場合によっては数週間を要したと答えています。

ハイブリッド・マルチクラウド環境における運用では、アプリケーションをどこで実行するのか、またデータをどのように管理するかについて最適化したいと考えています。回答者の95%は過去1年間で別の環境にアプリケーションを移行させており、これはセキュリティとイノベーションを優先しているということが最大の推進要因だからです。

そして、サステナビリティはあらゆる組織にとって重要なもので積極的な姿勢を見せています。さらに、IT環境をモダナイズ(近代化)した後に、AIに取り組むことが最優先事項と回答しています。

--日本の状況についてはいかがでしょうか?

金古氏:日本もグローバルと似たようなトレンドになっています。特徴的なものはクラウドスマートではあるものの、ハイブリッドクラウドへのデプロイはグローバルより日本の方が少ないということです。

  • ニュータニックス・ジャパン コーポレートバイスプレジデント 兼 代表執行役員社長の金古毅氏

    ニュータニックス・ジャパン コーポレートバイスプレジデント 兼 代表執行役員社長の金古毅氏

グローバルでは46%が着手していると回答していますが日本は17%です。日本のハイブリッド・マルチクラウドは、これから拡大していくため日本法人としても支援の準備を進めています。

現在、お客さまが重要視しているのはランサムウェアの防御、事業継続性、ワークロード&アプリケーションのマイグレーションの3つです。また、これから投資を行う領域についてはAI戦略、クラウドコストのマネージメント、データ分析の3つに対して意欲的です。

ランサムウェアに関しては、グローバルの平均と比べると数日以内に復旧する比率は日本が高く、これはセキュリティに対して日ごろから取り組んでいるということの表れです。

「Broadcomより長期的に物事を考えている」 - ラマスワミ氏

--一方でVMwareからの脱却が顕著になると想定されますが、どのように考えていますか?そして、Nutanixとしてどのような支援ができますか?

ラマスワミ:Nutanixは、お客さまの長期的なパートナーとして在り続けることができます。NPS(ネットプロモータースコア)のスコア90以上を7年連続で獲得しています。これは当社が成長し、2万5000という多くのユーザーを抱えても良いスコアを維持できています。したがって、VMwareユーザーはぜひ当社に移行してもらいたいと考えており、マイグレーションしやすく、当社のハイパーバイザーは成熟しています。

長年の間、VMwareからの移行も多数手がけていますし、そのプロセスを自動化しています。また、移行に関して金銭的なインセンティブも提供しているほか、チャネルパートナーにも協力してもらっています。

NPSが高い理由については、会社として文化の原則があるからです。まず、当社はお客さまに何としてでも成功してもらいたいということに執着しており、各社員が集中しています。また、長期に物事を考えるということも重要です。これら2つが当社の中心をなす部分です。

お客さまの成功に集中しており、だからこそお客さまに成功してもらうことで当社も成功していくのです。BroadcomのNPSと比較してみてください。彼らと比べて、われわれは長期で物事を考えているということが分かります。

最初は小さなものかもしれませんが、お客さまとの関係を構築すれば時の経過とともに大きな関係性になっていることが多いです。例えば、実際に大手企業でも一番最初に当社の製品を購入した金額が現在では15倍になっていることがあります。

--Nutanixがそのほかのベンダーと比べて、ユーザーの支援や技術的優位性はどういうものがありますか?

当社のソリューションは他のソリューションと比べて、シンプルであり、ワンクリックで実現する世界は信念でもあります。同じプラットフォーム、ソフトウェアでオンプレミスにデプロイされているものをクラウドにもデプロイできますし、日常的な業務が高度化されていてシンプル化されています。

また、スタックのあらゆる階層において柔軟性と選択の自由があることを重視しており、クラウドネイティブスタック、パブリッククラウド、ハイパーバイザー、ハードウェアなど、さまざまなものをサポートしています。ライセンスは完全にポータルです。

技術的な観点では、データ中心のサービスを提供していることです。オープンソースベースのハイパーバイザーを提供し、ブロック、ファイル、オブジェクトストレージを提供するとともに、DR(ディザスタリカバリ)、スナップショットなどの機能も提供しています。

そして、データべースサービスやランサムウェア保護もです。これらが、あらゆるハイブリッドな世界で利用が可能です。このように当社は決して立ち止まることなく、常にイノベーションを続けているのです。

--昨今ではランサムウェアの被害が多くなっていますが、どのように考えていますか?

ラマスワミ:ファイル上でランサムウェアは発生するため、当社のファイル製品を使うときはファイルパターンを常に変更をモニタリングしています。ランサムウェアは既知の攻撃パターンがあることから、攻撃がスタートするとすぐに検出できます。

15分以内にあらゆる変更を止めて攻撃を防止します。DR機能を持つスナップショットを提供しているため、お客さまはすぐに前の状態に復旧できます。

15分以内に検出できることがメリットですが、攻撃自体は常に進化していることから、長期的な保証は難しい側面があります。

日本でもハイパーバイザーの移行に関するニーズは強い

--日本におけるハイブリッド環境が17%と数字の根拠について教えてください。ハイパーバイザーの乗り換え需要についてはいかがでしょうか?

ラマスワミ:日本の数字はハイブリッドで運用したいけど、少ないという結果になっています。ただ、ニーズ自体は高くなっており、加速度的に増加していくことが想定されています。

  • ラマスワミ氏

    ラマスワミ氏

ハイパーバイザーを移行するニーズは多く、想定を上回るペースで増加しています。既存のVMwareユーザーの方も相談に来ています。

当社がフォーカスすべきはお客さまの成功は何か?ということであり、その中でNutanixへの移行を検討している方も多いため、ベストなオファリング、そして移行をスムーズにするためのコンサルテーションを含めたサービスを強化しています。

--最後に日本市場に対する期待について教えてください。

ラマスワミ:日本市場は未開拓のチャンスが多くあると考えています。レガシーアーキテクチャの企業が多く、モダナイゼーションをしていない、パブリッククラウドに移行していない企業が多いです。

これは当社にとってはチャンスであり、そうした企業はモダナイズしてクラウド環境でビジネスを展開しなければならないと感じています。

VMwareのみならず、Red Hatのハイパーバイザー「KVM(Kernel Virtual Machine)」やMicrosoftの「Hyper-V」もサポートし、ここ1年程の傾向としては日本を含めたグローバルにおいて70%のお客さまが当社のハイパーバイザー上で実行しています。