2024年9月27日に行われた自民党総裁選の結果、石破氏が高市氏との決選投票で勝利し、10月1日付で石破政権が新たに発足した。
各国から祝福の声が上がる中、中国の習近平国家主席も石破氏に祝電を送ったと中国メディアなどが報じている。習氏は両国が歩み寄り、建設的で安定した日中関係の構築を期待するとのメッセージを送ったという。
現在、中国は石破政権の対中姿勢を警戒と期待の双方で注視している。石破氏はアジア版NATOの創設を訴え、9月末に米シンクタンク「ハドソン研究所」にそれについて寄稿した。石破氏は、核戦力を増強する中国、軍事的結束を強めるロシアと北朝鮮を警戒し、それに対する抑止力を高めておく必要性を強調し、その一環でアジア版NATOの創設を訴えた。また、石破氏は日米安全保障条約や地位協定の改定を行い、自衛隊がグアムにある米軍基地に駐留するなど米軍との一体化を進める姿勢を示しているが、こういった構想は中国にとっては受け入れられないものであり、警戒の目で石破政権の動向を探っている。
一方、石破氏は防衛相時代に中国側と対話を進めた知中派とされ、安倍政権とは距離を置き、靖国参拝に否定的な姿勢に徹していることから、石破政権への期待を示す中国メディアもある。外相に起用された岩屋氏、防衛相に起用された中谷氏も対中国では穏健派とされ、石破政権を期待の目で捉える部分もある。中国外務省も日中首脳会談の開催に肯定的な見方を示し、中国専門家も安倍政権とは違い、石破政権は中国との対話を重視するだろうとの見解を示している。
そのような中、石破氏は近年、米中間で激化の様相を見せている半導体覇権競争に対して、どういった姿勢で臨むだろうか。
先に結論となるが、これについては“警戒”の姿勢に基づいた行動を取るだろう。すなわち、米国と共同歩調する立場に徹し、中国との経済、貿易関係は複雑になるというシナリオだ。
米バイデン政権が2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体分野における対中輸出規制を強化して以降、両国の間では半導体をめぐる覇権競争がエスカレートしている。バイデン政権は、他国の協力を借りなければ中国による先端半導体そのものの獲得、それに必要な材料や技術の流出を抑えることが困難と判断し、2023年1月には先端半導体の製造装置で世界でシェアを有する日本やオランダに対して対中輸出規制に加わるよう呼び掛け、日本は2023年7月、先端半導体の製造装置など23品目を新たに輸出管理の規制対象に加えた。
これは事実上の対中輸出規制となったが、米国は中国軍の近代化、ハイテク化を防止するという安全保障上の理由で日本に同調を呼び掛けたのであり、石破氏はこの問題を経済、貿易というより安全保障の問題として捉え、米国から同調を要請されれば積極的に賛同し、日本の経済合理性とのバランスを取りつつも、中国側への輸出規制を実行していくことになろう。石破氏は中国との対話を重視し、日中間の政治的緊張や貿易摩擦が拡大しないよう最大限の注意を払うだろうが、半導体覇権競争のケースでは安全保障上の石破スタンスに徹し、日中の経済、貿易関係の間では引き続き不穏な空気が漂い続けるだろう。