加速キッチン、早稲田大学(早大)、科学技術財団の3者は9月27日、欧州合同原子核研究機関(CERN)主催の高校生向けの国際素粒子実験コンテスト「Beamline for Schools」(BL4S)において、日本の女子高校生5名からなるチーム「Sakura Particles」が2024年最優秀賞を受賞し(提案された実験内容が採択され)、9月11日から25日まで、CERNが運用する加速器施設「大型ハドロン衝突型加速器」(LHC)において素粒子実験を実施したことを共同で発表した。
BL4Sは、年に1回CERNによって実施されている、世界中の高校生を対象とした素粒子実験コンテストで、採択されたチームは旅費・滞在費支給の上で現地に招待され、2週間かけて提案した素粒子実験を研究者と共に行うことができるというもの。今年は、過去最高となる461件の応募があったとし、その中でSakura Particlesは、エストニアの「Mavericks」、米国の「SPEEDers」と共に最優秀賞を受賞。研究者を除いた日本人として始めて、LHCで素粒子実験を行うという快挙を達成した。
Sakura Particlesのメンバーは、1つの高校の科学系のクラブのメンバーというわけではなく、全国から集まり結成され、中には中学生時代から放射線や宇宙線、雷雲由来のガンマ線の観測などの研究を行い、複数の科学コンテストで賞を獲得している者もいるという。
コンテストでは、LHC、または独国の電子シンクロトロンを運用する高エネルギー加速器・高エネルギー物理学の研究所であるDESYにおいて、加速器ビームラインを利用した実験提案書をすべて英語で提出し、その内容について審査が行われる。
今回Sakura Particlesが提案した実験提案書の内容は、メンバーが自ら開発したハンドメイドの宇宙線2次元イメージング検出器の性能評価というもの。同検出器の開発は、宇宙から降り注ぐ二次宇宙線のミューオン(ミュー粒子)を使って、地球上の大型構造物の内部を透視する技術「ミュオグラフィ」への応用を目標としている(ミューオンはニュートリノほどではないが、非常に透過性が高く、近年はエジプト・クフ王のピラミッドの中心部に未知の巨大空間を発見するなど、遺跡や歴史的な建造物などの非破壊内部イメージングや、山体内のマグマの状況の調査などで大きな活躍を見せている)。こうしたイメージング検出器は一般的に大型で高価だが、Sakura Particlesは独自の工夫で、安価にミュー粒子の軌跡を測定することが可能な検出器の開発に成功したという。
LHCにおいては、宇宙から降り注ぐ宇宙線を模擬して人工的に光の速さの99%以上という高エネルギーのミューオンビームを生成できることから、それを開発された検出器に照射し、2次元方向のイメージング性能の検証が実施された。検出器の異なる13点に対してミューオンビームが照射され、そのうちの6点についての解析が現地で実施された。その結果、想定されていたビーム位置を再構成できることが確認できたとする。残りの測定点に対しても帰国後に解析を行い、最終的な検出器の位置決定精度を評価する予定とした。
今後は、引き続きSakura Particlesのメンバー主体で実験結果をまとめ、物理教育関係雑誌への論文を投稿することに加え、2024年12月に実施される米国地球物理学連合での高校生向けポスター発表「Bright STaRSプログラム」へのオンライン参加、中高生のミュオグラフィなどの探究活動への活用などを予定しているとした。また、そうした今後の成果は、加速キッチンのwebサイトやSNSで紹介していく予定としている。