京都大学(京大)は9月18日、「Ia型超新星爆発」において、それを引き起こす「デトネーション(爆轟)」と呼ばれる超音速で伝播する核融合燃焼の火炎と、同名の化学燃焼において超音速で伝搬する火炎(燃焼波)との理論的な共通点の多さに着目し、化学燃焼実験に裏付けられたデトネーション予測の理論を用いることで、同超新星の爆発モデルを検証できることを示したと発表した。

同成果は、京大大学院 工学研究科 機械理工学専攻の岩田和也特定助教、同・大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻相関重力基礎論講座の前田啓一教授の共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

  • 白色矮星表面への質量降着流により発生する、Ia型超新星の第1段階のデトネーションのイメージ

    白色矮星表面への質量降着流により発生する、Ia型超新星の第1段階のデトネーションのイメージ。(右下)セル構造の拡大図。今回の研究での数値シミュレーションの結果が示されている。(c) 岩田、前田(出所:京大プレスリリースPDF)

Ia型は、質量降着などにより白色矮星の質量が太陽の約1.46倍を超えた結果、暴走的な核融合反応が起きることで生じるタイプの超新星爆発。同超新星の明るさや元素の生成量は、核燃焼によって駆動されるデトネーションが発生すると仮定すると、よく説明できるという。しかし、そもそも同超新星においてデトネーションが起きるのかどうかなど、そのメカニズムを結論づけるための根本的な問題が未解明だったとし、化学燃焼によるデトネーションについては研究が進んでいたが、その確立された理論を同超新星のデトネーションに応用した研究は存在していなかったとのこと。

そこで研究チームは今回、デトネーションの点火・消失に関する化学燃焼の理論をIa型超新星の爆発モデルの検証に応用することを提案。その第一歩として、近年、同超新星の爆発シナリオの有力候補の1つとして注目される「ダブル・デトネーション(DD)モデル」をターゲットとすることにしたという。

DDモデルは白色矮星の表面で1回目、中心で2回目のデトネーションが引き起こされて爆発に至るというシナリオであるが、1回目がそもそも着火するのか、消失せずに発達・伝播するのか、それらの条件は何かという点が未解明とのこと。同モデルに基づく白色矮星規模の大領域のシミュレーションにおいては、デトネーションの取り扱いや解像度次第で結果が大きく変わってしまっており、それに対する理論的な考察も十分ではない状況だったとする。

  • 実際のデトネーションにおける衝撃波と火炎は、左図のような単純な平面ではなく、右図のように凹凸や分岐を持った複雑な多次元構造を持っているという

    (左)実際のデトネーションにおける衝撃波と火炎は、左図のような単純な平面ではなく、右図のように凹凸や分岐を持った複雑な多次元構造を持っているという。このような構造は、もともと実験装置の壁面に塗ったすす膜の上にうろこ(=cell)のような模様を描いたものとして観測されてきたため、セル構造と呼ばれるようになった(出所:京大プレスリリースPDF)

そこで今回の研究では、デトネーションに伴う「セル(うろこ)構造」に着目することにしたという。同構造はデトネーションの最小単位というべきもので、工学分野においては、そのサイズを基にデトネーションの点火・消失を予測する理論が確立され、化学燃焼実験の結果を良く説明できている。

その一方で、Ia型超新星に伴う核燃焼デトネーションにおいては、そもそもセル構造がはっきり見えるほどの高解像度のシミュレーションがなされてこなかったという。そこでまず、白色矮星表面のローカルな領域に注目したこれまでにない高解像度のシミュレーションが実施された。その結果、同超新星で想定される状況下においても、セル構造が見られたとする。そして、白色矮星表面の密度や組成の異なる多数のシミュレーションが実行され、それらの性質からセル構造のサイズを決定する数式が考案された。これにより、セル構造サイズに基づいた化学燃焼のデトネーションの理論を、同超新星へ応用する準備ができたとした。

  • セル構造シミュレーション結果の例

    セル構造シミュレーション結果の例。密度1x10の6乗(100万)g/cm3、ヘリウム質量分率0.6における圧力分布。(左)計算領域全体の瞬間図。(右)77ナノ秒間隔の連続図(出所:京大プレスリリースPDF)

続いて、化学燃焼のデトネーションの理論がこれまでの大領域シミュレーションに当てはめられた。すると、デトネーションが着火した例とそうでない例について、その傾向を同理論でうまく説明できることが示されたとした。研究例によってばらつきのあった点火・消失条件に対し、理論的な基準を上手く提案することができたという。そして今回の研究成果は、以下の2点で重要とした。

1つ目は、化学燃焼のデトネーションの理論の応用により、必ずしも大規模なシミュレーションを行わなくてもデトネーションの着火・消失がある程度判定できるため、どのような条件下でIa型超新星が発生するのか(どのような恒星進化を経たものが爆発しうるかなど)探る上で非常に有用とする。

2つ目は、化学燃焼実験という強い裏付けのある知見が、宇宙物理学における重要な未解決問題に役立つことが示された点とする。今回の研究は、工学実験の分野で発展した視点を理学の重要問題に持ち込んだものであり、学際融合の観点からも重要な機会をもたらすことが期待されるとした。

今回の研究成果は、白色矮星の中心で発生されるとされる2回目のデトネーションに関する検証や、DDとは異なる他の爆発モデルに対する検証など、Ia型超新星の爆発メカニズムに対する理解を大きく進展させる可能性を秘めた手法として、さらなる発展が期待されるとする。研究チームは今後、観測やシミュレーションとのさらなる協調を視野に、化学燃焼実験の応用の可能性をさらに広げていきたいと考えているとしている。