日本と欧州の水星探査計画「ベピコロンボ(BepiColombo)」が2024年9月5日、4回目となる水星スイングバイに成功した。

ベピコロンボは2024年4月、宇宙を航行するためのイオンエンジンに問題が発生し、フルパワーで航行できなくなった。今回のスイングバイにより、問題を抱えたままのエンジンでも水星に到達できる新しい軌道に入り、当初より約1年遅れとなる2026年11月の水星到着を目指す。

  • ベピコロンボが4回目の水星スイングバイ時に撮影した水星

    ベピコロンボが4回目の水星スイングバイ時に撮影した水星。右上が南極にあたる (C) ESA/BepiColombo/MTM

ベピコロンボ

ベピコロンボは、欧州宇宙機関(ESA)と、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で実施する水星探査計画で、太陽に最も近い惑星で、まだあまり探査されたことのない水星にまつわる、さまざまな謎を解き明かすことを目指している。

ベピコロンボは、ESAが開発した「水星表面探査機(MPO)」と、日本が開発した「水星磁気圏探査機(MMO)」、愛称「みお」の2機の探査機からなる。この2機に加え、宇宙を航行するための「電気推進モジュール(MTM)」も合体させた、三段重ねの状態で打ち上げられ、水星まで航行する。そして、水星に近づいたところで分離し、MPOと「みお」はそれぞれ水星を回る軌道に入り、探査を行う。

これまで水星を探査したのは、米国航空宇宙局(NASA)が1973年に打ち上げた「マリナー10」と、2004年に打ち上げた「メッセンジャー」の2機しかない。これは、水星が探査機を送り込むのがとても難しい、近くて遠い惑星だからである。

探査機が水星に近づこうとすると、それは太陽に近づくということでもあり、太陽の強力な引力によって、太陽に落ちるように大きく加速してしまう。そのため、そのまま水星の重力に捕まって周回軌道に入るには速度が速すぎ、またロケットエンジンを噴射しても、その速度を十分に落とすことは難しい。

そこで、ベピコロンボは、効率よく宇宙を航行できる電気推進の一種、イオンエンジンを装備しており、減速する方向に噴射し続けることで、少しずつ確実に、速度を落としていく。さらに、惑星の重力によって探査機の進む方向を変えたり、加速・減速したりできる「スイングバイ」航法も使って減速する。水星到達までには、地球を1回、金星を2回、そして水星を6回もスイングバイする。

ベピコロンボは2018年、南米仏領ギアナのギアナ宇宙センターから打ち上げられた。これまでに1回の地球と2回の金星のスイングバイをこなし、水星スイングバイも3回を数えた。

ところが、4回目の水星スイングバイに向けた最中の今年4月、MTMのイオンエンジンに問題が発生し、所定の推力で噴射できなくなってしまった。ESAのエンジニアたちが調査したところ、MTMの太陽電池と、その電力を探査機の各所に分配する装置との間に、予期しない電流が流れていることが確認された。これにより、イオンエンジンに供給される電力が減ったことで、推力が低下したとみられている。

その後、数か月にわたる分析の結果、このままの推力では、当初目指していた2025年12月の水星到着はできないと判断された。それと並行して、ESAはミッションを継続する方法を検討し、その結果、低い推力でも水星に到達できる新しい軌道が考案された。

水星到着は11か月遅れの2026年11月になるものの、到着後は、予定していた科学ミッションをほぼすべて実施できるという。

  • イオンエンジンを噴射して宇宙を航行する、ベピコロンボの想像図

    イオンエンジンを噴射して宇宙を航行する、ベピコロンボの想像図 (C) ESA/ATG medialab

4回目の水星スイングバイ

そして 、ベピコロンボは4回目の水星スイングバイに臨んだ。協定世界時9月4日21時48分には、ベピコロンボは水星の表面から高度165kmのところを通過した。これは、もともと予定されていたスイングバイの最接近距離(水星表面からの最低高度)よりも35km低く、怪我の功名ながら、ベピコロンボにとって、そして水星探査の歴史上でも、最も水星に近づいた例となった。

また、スイングバイ中には、ベピコロンボは初めて水星の南極を観測した。NASAのメッセンジャーも南極を観測したことはあったが、ベピコロンボはそれよりはるかに近づいた。

水星は太陽に近いため、最大で400℃にもなる灼熱の惑星だが、南極と北極には太陽の光が一切当たらない「永久影」が存在し、そこには水が存在している可能性もある。ベピコロンボは、試験を兼ねて観測機器を動かし、スイングバイ時に観測を行っており、今後その観測データの分析が待たれる。

ベピコロンボは今後、MTMのイオンエンジンを10月まで噴射し、2024年12月に5回目の水星スイングバイを、そして2025年1月に6回目にして最後の水星スイングバイを行うことを予定している。

そして、2026年11月には化学推進エンジンを噴射して、水星を回る軌道に入り、MTMとMPO、「みお」が分離される。2027年の初めには、それぞれ科学観測を開始し、2028年4月まで、約1年間の探査活動を行う。また、その後も探査機の状態が正常なら、延長ミッションとして2029年4月まで活動できる可能性もある。

もっとも、イオンエンジンの問題が、さらに拡大する懸念はある。また、当初の予定よりも水星到着や科学観測の開始が遅れることで、ほかの機器などに問題が起こる可能性も上がってしまう。「人類 vs 水星」と銘打った、ベピコロンボの挑戦はこれからも続く。

  • ベピコロンボが水星スイングバイ時に撮影した、水星のヴィヴァルディ・クレーター

    ベピコロンボが水星スイングバイ時に撮影した、水星のヴィヴァルディ・クレーター (C) ESA/ATG medialab

参考文献

ESA - BepiColombo's best images yet highlight fourth Mercury flyby
ESA - Fourth Mercury flyby begins BepiColombo’s new trajectory
ESA - BepiColombo factsheet