おせち業界はレッドオーシャン【好調食品ECの成長戦略 <おせち編>】

今年もおせち商戦がスタートした。多くのEC企業が8・9月からおせちの販売を開始し、早期購入特典などを付けて顧客獲得を図っている。今年の年末年始は例年より多い9連休を取れる人が多いと言われており、帰省して家族でおせちを楽しむ人が増えると予測できる。家族で楽しめるおせちといっても商品内容はさまざまだ。各社はそれぞれの戦略で商品内容の差別化を図っている。有力企業の今年のおせち戦略について迫る。

大手通販企業、海産物EC企業、食品EC企業、外食EC企業などが、今年の8・9月に一斉におせちの販売を開始した。多くの企業は、昨年よりも長い年末年始休暇を考慮して、家族で楽しめるおせちを販売している。

小学館ではタンパク質やビタミンなどを摂れる美容や健康に配慮したおせちを販売している。具材にすっきりとした甘さのオリゴ糖を使用するなど調味料にもこだわり、上品な味わいに仕上げている。さらに今年から「ワイン」をセットで販売する商品展開も開始し、需要のある層からの購入につなげていく。

大手通販企業の千趣会は、「トムとジェリー」「スヌーピー」「ムーミン」「すみっコぐらし」「ディズニー」など、人気キャラクターを使用したおせちの販売を開始した。

「実際に『トムとジェリー』は昨年も販売し、SNSなどで話題を集め、即完売した。それほどキャラクターおせちは人気を集めている」(担当者)と話す。

千趣会はキャラクターというIPを武器に、小さい子どもと一緒に楽しんで食べられるおせちを販売し、購入につなげていく。

<新規参入は高い障壁>

今年もおせち販売に参入する企業がある。個人的におせち業界はレッドオーシャンだとみている。新規参入企業が販売を伸ばすためには、より価格を安くしたり、さらに高級食材を使用するなど、明確な差別化を図らなければ、販売に苦戦するだろう。

おせちを販売する企業は大手企業も多く、すでに多くの顧客を持つ企業が、おせちを販売している。既存顧客におせち販売の情報を配信すればいいため、マーケティング費用もかさまない。

実際に宝島社では、自社の資産を最大限活用し、誌面での告知や、誌面のSNSアカウントで告知をして、販売につなげていく計画だ。すでに先行企業がより多くの顧客を獲得しようと動いており、新規参入企業がおせちで売り上げ・利益を確保するのは並大抵のことではないだろう。

【千趣会】トムとジェリーのおせち 昨年はSNSで話題、初日に完売

千趣会は8月23日、「ベルメゾン」から毎年好評の「キャラクターおせち」の予約販売を開始した。「トムとジェリー」「スヌーピー」「すみっコぐらし」「ムーミン」を販売している。昨年、「トムとジェリー」のおせちの初回販売分は販売初日に完売した。キャラクターおせちの他商品も発売から1カ月経たずに、予約数が上限に達するなど、好評を集めた。

今年の「トムとジェリー」の集客に関しては、「SNSでの情報発信や、当社とワーナーブラザースジャパンからのプレスリリース配信を行った。SNSでの情報発信では、動きのある動画を最大限活用する。今年は昨年の2倍の販売数を目指していきたい」(担当者)と話す。

実際にインスタグラムでは、音声付きで「85周年」を記念した特別デザインの重箱を紹介したり、具材に近くまで寄り、どのような食材が入っているかを分かりやすく伝えている。

「トムとジェリー」のおせちは二段重で、デザートまで用意している。

▲「トムとジェリー」のおせちを販売

「今年のデザートはアニメに出てくるような穴あきのレアチーズケーキを届ける。そこにトムがジェリーを追いかけるピックシートも付け、アニメの再現を目指した」(同)と話す。

インスタグラムの動画でも、デザートを紹介する際、先にレアチーズケーキを置き、その後、ピックシートを刺して、可愛さを表現している。インスタグラムのリールでは、9月10日時点で、64万回再生を超えている。

「今年も昨年同様、SNSで話題になり、購入につながることを期待している。ただそれだけではなく、当社からインスタグラムなどで工夫ある情報を発信し、多くの人に『トムとジェリー』のおせちを知ってもらい、購入につなげていきたい」(同)と話す。

【宝島社】誌面などでも告知 昨年より25%増収目指す

ファッション雑誌の販売部数でトップシェアを誇る宝島社は、おせちの販売に注力している。自社ECサイト「宝島チャンネル」のメルマガ会員47万人への情報発信や、各ファッション誌での告知、SNS発信などを駆使する。今期のおせち商品の販売目標数は前年比25%増を掲げている。

宝島社では、4~5人前で59品目入っている「寿(ことほぎ)」(税込3万6300円)、3~4人前で49品目入っている「宴(うたげ)」(同2万4800円)、2~3人前で33品目の「福寿(ふくじゅ)」(同1万7600円)の3種類を販売した。「福寿」は昨年、販売していない。

▲4~5人前で楽しめる「寿」を販売

新商品を販売する理由について、「もっと気軽におせちを楽しんでいただきたいと考え、価格がお手頃で、コンパクトなサイズ感のおせちを販売することにした」(マーケティング局・天野真里花氏)と説明する。

さらに今年は、高級食材も増やした。昨年、購入した顧客にアンケートを取ったところ、「高級食材が入っていてうれしい」という声が寄せられていたため、商品内容を変更した。高級食材を使用したが、販売価格に転嫁していない。企業努力で大幅な値上げは行っていないという。

集客は宝島社の資産を活用する。販売場所は「宝島チャンネル」だけだが、メルマガや誌面だけでなく、宝島社のウェブサイト「FASHIONBOX」で告知する。宝島チャンネルのSNSアカウントでの告知にも注力する。Xは9万6000人、インスタグラムは1万6000人のフォロワーがいるという。

【小学館】「美的」エディター参加 3年連続完売のおせちを進化

小学館は今年、美容誌「美的」とカタログギフトで有名なリンベルとコラボした「美的おせち」を進化させた。「美的」の編集部が知見と経験を結集して「美的おせち」第4弾を開発した。3年連続完売のおせちの内容をブラッシュアップし、多くの人からの購入を目指していく。

今年の「美的おせち」では、和洋折衷をバランス良く詰め合わせた「美的おせち三段重」と、酒と合うおつまみを多く詰め合わせた「美的オードブル」の2商品を発売した。

▲合わせる酒も提案

「美的おせち三段重」は選び抜かれた肉や魚介類のほか、ビタミン、繊維質を多く摂れる美容や健康を意識した食材を詰め合わせた。

「美的オードブル」では、”酒に合う”食材を豊富に盛り付けた。さらに試食や試飲時に選考スタッフの評価が一致したワインを併せて提案する「美的オードブルスペシャルパーティセット」も販売している。サイズはパートナーや友人と楽しむのに最適な2~3人前となっている。

他社を見ても、おせちとワインをセットで販売する企業は少ない。ワインを販売する場合は、ワイン単体で販売する企業が多い。だが、小学館では、おせちとワインをセットで販売し、ワインも「美的」スタッフが納得した商品を提供し、消費者からの購入につなげていく。

【コロワイドグループ】累計20万食を販売 グループ力生かし販売促進へ

コロワイドのグループ会社であるアトム、カッパ・クリエイト、チアーズダイニングの3社は9月2日、「コロワイド厳選おせち2025」の注文受け付けを開始した。

「コロワイド厳選おせち」は累計で20万食以上を販売している。今年は食材調達の環境変化も踏まえつつ、素材の見直しや吟味を行っているが、定番商品のため大幅な商品内容の変更は行っていないという。

コロワイド・おせち担当の喜多村清記氏は、「前年実績を上回る販売に注力していく」と話す。

今年のおせち商戦においても、例年好評を集める豪華三段重「麟(りん)」(税込2万3000円)をはじめ、厳選二段「粋(すい)」(同1万6000円)、特選一段「慶(けい)」(同1万円)の合計3種類を用意した。

▲累計20万食超の人気おせち

単品商品として、おせちと合わせてお正月の食卓を豪華に彩る「バンノウ水産厳選本まぐろの詰め合わせ」「5Lサイズ特大タラバ蟹」「国産黒毛和牛スライス」(各同1万1000円)も用意し、追加商品としての購入を目指す。

▲累計20万食超の人気おせち

コロワイドグループの一部直営店、自社ECサイト、ECモールなどで販売している。一部、取引先への卸売りも行う。

集客方法はおせち料理を取り扱うグループ内の直営店舗における発売告知に加え、自社ECサイトへの掲出も実施して、購入につなげていく計画だ。