シスコシステムズ(シスコ)は9月13日、同社の年次イベント「Cisco Connect 2024」を東京都内で開催した。基調講演には代表執行役員社長の濱田義之氏が登壇。「よりセキュアに未来をつなぐシスコのプラットフォーム戦略」と題し、特に注力している「セキュリティ」と「AI」に関する取り組みの現状と、今後の戦略について発表した。
セキュリティ事業におけるシスコの取り組み
サイバー攻撃の数は年々増え、高度化している。出版大手のKADOKAWAが6月に大規模なサイバー攻撃を受けたことが記憶に新しい。同社は、ランサムウエアによって複数サーバのデータが暗号化され、子会社のドワンゴが運営する「ニコニコ動画」などがサービス停止に追い込まれた。
サイバー攻撃が増えているのは日本国内だけではない。インドネシア政府は、同国のデータセンターが6月中旬に大規模なサイバー攻撃を受け、282の政府機関のシステムに障害が出たと発表している。
濱田氏は「サイバー攻撃に関するニュースを見聞きしない日の方が少ない。仕事で各国に行くことが多いが、サイバー攻撃が発生して顧客がミーティングに出られなくなるなんてことは日常茶飯事だ。サイバー攻撃の対象は、業界や企業規模を問わない。日本だけでなく世界における喫緊の課題だろう」と語った。
多くの企業がサイバー攻撃といったセキュリティインシデントに対応しようと、「EDR(エンドポイント検知・対応)」や、「ZTNA(ゼロトラスト・ネットワークアクセス)」、「CASB(クラウド・アクセス・セキュリティー・ブローカー)」といったさまざまなセキュリティソリューションの導入を進めている。新たなサイバー攻撃が出てくるたびに、それを阻止しようとするセキュリティソリューションを各ベンダーが開発している状況だ。
一方で、複数のベンダーにまたがって異なるセキュリティソリューションを組み合わせている企業も少なくないだろう。濱田氏は「異なるコンソールを使用して、異なる種類のポリシーを、複数の場所で管理している企業は多い。ネットワークとセキュリティをプラットフォームとして一体で考えることが重要だ」と指摘した。
シスコはルータやスイッチといったネットワーク機器の大手だが、近年はサイバーセキュリティを成長事業と位置付けて投資を増やしている。2024年3月にはビッグデータの解析に強みを持ち、不正や脅威を検知するシステムを手掛ける米Splunkを約280億ドル(約4兆4500億円)で買収する手続きを完了した。
また6月には、日本におけるサイバーセキュリティ事業の強化に向け、サイバー攻撃の検知や分析を担う「サイバーセキュリティ・センター・オブ・エクセレンス(CoE)」を東京都内で年内に開設すると発表。
同社のサイバーセキュリティ部門である「Cisco Talos(シスコ・タロス)」の研究者やエンジニアなどを常駐させ、政府機関や産業界との連携を担う担当者も置く。日本のサイバーセキュリティ人材の育成にも注力する。今後5年間で新たに10万人のITおよびサイバーセキュリティ学習者に研修を実施することを目指す。
さらにシスコは7月、防衛省陸上幕僚監部と「サイバーセキュリティ・ITインフラ分野の連携・協力に関する覚書」を締結した。同社は今後、陸上幕僚監部と陸上自衛隊に対し、サイバーセキュリティやIT関連の人材育成と体制強化を支援する。Cisco Talosが集めた脅威情報を防衛省と共有するとのこと。
「Cisco Talosは米国の政府機関を除くと世界最大規模の脅威インテリジェンスチームで、世界で約500人が分析官として活動している」(濱田氏)
AI時代に向け、ハーバード大学発スタートアップ買収へ
シスコはサイバーセキュリティだけでなく、AIも注力分野と位置付け戦略的な投資を続けている。
シスコが2023年12月に公表した調査結果によると、日本企業の97%が過去6カ月で社内におけるAI技術導入の緊急性が高まったと回答した一方で、「AIの展開、活用に向けた十分な準備が整っている」と回答した企業はわずか6%だった。逆に、AIの活用が「遅れている」と回答した企業は74%だった。「AIの活用はまだまだ進んでいないのが現状だ」(濱田氏)
シスコのAI分野への取り組みはさまざまだ。2024年2月には米半導体大手のNVIDIAと戦略的パートナーシップを締結。オンプレミスのAIデータセンターの自動化と簡素化されたオーケストレーションによるクラウド管理を実現する計画を発表した。「よりシンプルなAI基盤を顧客に提供していきたいというのが狙いだ」(濱田氏)という。
また8月末には、AIセキュリティスタートアップの米Robust Intelligence(ロバストインテリジェンス)の買収意向を発表(具体的な買収額は非公表)。同社は、ハーバード大学の研究者らが2019年3月に創業した企業で、AIモデルを評価してリスクを監視するツール「Robust Intelligence」を開発する。米国では、JPモルガン・チェースやExpedia、アメリカ国防総省、日本では、東京海上日動やNEC、楽天などで利用実績があるという。
ビデオメッセージで登壇した創業者の大柴行人氏は「AIの開発、活用には大きな可能性がある一方で、たくさんのリスクが存在する。(シスコによる買収で)当社のAIセキュリティに関する技術が、シスコの盤石なセキュリティ製品にどんどん統合されていく」と説明し、「私は日本をAI先進国にしたいという強い使命感を持っている。そのためには、AI時代に即したネットワーク基盤やデータセンター、そしてセキュリティが必要不可欠だ。AI時代をつなぎ、保護していく」と語った。
濱田氏は最後に「AIを支えるインフラの構築、セキュリティのためのAI活用、AIの燃料となるデータの構築といった顧客の課題を支援し続ける。これからのAI時代においては、ネットワークをはじめとするインフラ、セキュリティ、データ、これらすべてを包括的に統合されたプラットフォームとして管理、運用していくことが重要だ」と語り、講演を締めくくった。