東北大学は9月11日、鹿児島県の桜島火山において人類が記録に残した有史以降に発生した3回の大規模噴火(1471年、1779年、1914年)で噴出した軽石に含まれる鉱物の微細な化学組成を調べた結果、桜島火山を含む「姶良(あいら)カルデラ」下の深さ約10kmのマグマ溜まりから火道の浅部(深さ1~3km程度)へと上昇したマグマは、約50日程度以上停滞した後、再び上昇を開始してからは、ごく短時間(動き出してから数日以内)で地表に達していたことがわかったと発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科 地学専攻の新谷直己助教、同・中村美千彦教授らの研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する幅広い分野を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載された。

爆発的な噴火の規模を示す指標である火山爆発指数(VEI)は、0~8の9段階があり、指数が1つ上がると噴出量が1桁大きくなることを意味する(VEI1から2の間だけは2桁増える)。日本国内だけでなく、世界的に見ても指折りの活動的火山として知られるのが、鹿児島県の桜島火山で、VEIは4であり、規模は「大規模」、噴出量(テフラ体積)は10の8乗(=1億)立方メートルとなっている。

桜島火山は現在、地殻変動の観測から、約2万9000年前の超巨大噴火によって形成された姶良カルデラ(南北約23km・東西約24kmのサイズを持つ)深部のマグマ溜まりには、直近の大規模噴火である110年前の「大正噴火」の際に放出された量と同程度のマグマがすでに蓄積されていることが示されており、近い将来に、大規模な噴火が起きる可能性が高いことが危惧されている。

15世紀以降の3回の大規模噴火では、噴火に先立って姶良カルデラ下の主マグマ溜まり(深さ10km程度)から浅部の火道(深さ1~3km程度)へとマグマが上昇していたことが解明されているが、噴火に至る詳細な過程や、噴火の誘発要因についてはまだわかっていないことも多いという。そこで研究チームは今回、その3回の大規模噴火を対象として、軽石に含まれる鉱物の化学組成、特に1つの鉱物内部における中心部と外縁部での化学組成の違いである累帯構造に着目することにしたとする。

高温なマグマの中では、鉱物内部での元素の拡散が活発に起こることで、「累帯構造」(結晶の成長において中心部と周辺部で、同形置換による固溶体の成分の違いなどがあるもの)は焼きなまされ、徐々に均質化することがわかっている。つまり、均質化の程度を調べることで、いつ・どのような現象が起きていたのか時間を遡ることができるとのこと。

  • 鉱物の累帯構造と、元素拡散による均質化の模式図

    鉱物の累帯構造と、元素拡散による均質化の模式図。時間が経つにつれて外縁部から組成が徐々に変化していく(出所:東北大プレスリリースPDF)

マグネシウムと鉄を主成分とする珪酸塩鉱物の一種である「直方輝石」には、累帯構造が普遍的に見られる。累帯構造の中でも、マグマ供給によりできたと考えられるものについて、元素の拡散時間を求めたところ、数年から数十年と長い時間スケールが示されたという。これは、マグマ溜まりへのマグマの供給が繰り返し起こっていながら、直ちに噴火にはつながってはいなかったことを示すとする。

一方で、ほぼすべての磁鉄鉱には累帯構造がなく、それぞれの結晶内部で化学組成が均一だったとした。これは、磁鉄鉱内部での元素の拡散が直方輝石に比べて約1万倍以上も高速なため、浅部の火道にマグマが上昇してから一定以上の時間が経過したことで、直方輝石と同時に形成されていたはずの累帯構造が消失した(鉱物組成が均質化した)ことが示されているという。磁鉄鉱内の累帯構造の消失にかかる時間の計算から、少なくとも約50日以上はマグマが定置していたと見積もられるとした。観測記録が残っている大正噴火の発生日時から逆算すると、深部マグマ溜まりから浅部火道までのマグマの上昇は、噴火の約半年前に観測された二酸化炭素ガスの放出による事故に対応している可能性があるという。

  • 鉱物の累帯構造から読み解かれた、噴火に至るまでの地下でのマグマの動き

    鉱物の累帯構造から読み解かれた、噴火に至るまでの地下でのマグマの動き(出所:東北大プレスリリースPDF)

また、ごく一部の磁鉄鉱には、表面近くに累帯構造が見られることも確認された。同構造は、その化学組成を踏まえると、マグマが地表に上昇する時にできたと解釈できるとする。元素拡散時間は3~55時間と見積もられ、地殻の岩石に割れ目を作って最初に上昇を開始した時にマグマに含まれていた磁鉄鉱と考えられるという。観測記録が残っている大正噴火の前兆現象と比較すると、噴火の約30時間前から始まった有感地震に対応していると思われるとした。

噴火に至る上記の過程は、桜島で有史に3回繰り返されてきた大規模噴火のいずれにも共通していることから、近い将来の発生が懸念されている同程度の噴火でも、同様の過程を辿る可能性があるとする。防災計画の策定においては、マグマがこのような複雑な動きをする可能性があることも考慮することが必要としている。