キーサイト・テクノロジーは9月11日、同社の汎用オシロスコープ「InfiniiVisionシリーズ」として、14ビットADコンバータ(ADC)を搭載することで分解能を向上させた200MHz~1GHz帯域に対応する「InfiniiVision HD3シリーズ」を発表した。

電子機器や電源コンポーネントにおいては、高性能化や低消費電力化などのニーズがある中、製品の品質保証や製品歩留まりの最大化に向けて、設計における欠陥やハードウェアの不具合を示すわずかな信号エラーを特定する必要がある。そのためには、複数の信号を一度にトレースして設計のトラブルシューティングを行うことが求められるが、高性能化や低消費電力化が進むにしたがって、ノイズよりも小さく、滅多に発生しない信号の不具合を測定することが求められるようになってきている。同シリーズは、そうしたニーズに対応することを目的に開発されたもので、InfiniiVision 3000シリーズの後継に位置づけられるモデルとなる。

  • InfiniiVision HD3シリーズ

    左が前世代となるInfiniiVision 3000シリーズ、右がInfiniiVision HD3シリーズ。ディスプレイサイズは3000G Xシリーズの8.5インチからHD3シリーズでは10.1インチに大型化された

後継と言っても、中身はまったく異なっており、高性能化を実現するため、同社オシロスコープの最上位シリーズとなる「Infiniium UXRシリーズ」で採用されたシールド技術や半導体パッケージ技術を含むフロントエンド技術を踏襲したほか、14ビットADCに対応するアンプなどを新開発。これにより競合製品比でノイズフロアを半分に抑制することに成功し、実際のノイズレベルとしてInfiniiVision 3000G Xシリーズで277μVRMS、一般的なオシロスコープで280μVRMS未満だが、HD3シリーズでは31.5μVRMSほどと前世代比で1/9ほどに低減。この低ノイズ化をベースに、14ビットADCを搭載した独自開発の専用ASIC(MegaZoom 5)により、ノイズを抑えたきれいな波形を高精度で表示することを可能とした。

  • 高精度な波形計測を可能とした

    上位シリーズで採用されてきた低ノイズ化技術を汎用オシロにまで適用することで、140万円弱ながら14ビットADCの高精度な波形計測を可能とした

また、そのENOB(Effective number of bits:有効ビット数)も低ノイズ化を果たしたことから、HD3シリーズで10.4ビット、12ビットADCを搭載した他社同等品で8.9ビット、8ビットADCを搭載したInfiniiVision 3000G/4000Gシリーズで6.9ビットと、搭載された14ビットADCの性能を引き出すことを可能としている。

  • 有効ビット数の既存製品との比較

    有効ビット数の既存製品との比較

さらにカスタムASICについても14ビットADCに加え、メモリについても一般的なテスト条件下で標準で20Mpts、最大100Mptsのロングメモリを実現したほか、マスクテストやゾーントリガ、シリアルデコード&トリガなどの機能もハードウェアベースで搭載することで高い性能を発揮することを可能としたとする。特にこのロングメモリアーキテクチャについては、セグメントメモリ機能とタイプスタンプ付きリスト表示機能を活用することで、100Mptsよりも長いデータを取得することも可能としている。

  • 1chあたりMegaZoom 5を1つ搭載したモジュールで処理

    1chあたりMegaZoom 5を1つ搭載したモジュールで処理することで、4chのフル計測でも1chあたり14ビットの精度を落とすことなく利用することができる

このほか、ソフトウェア側の機能として「フォルトハンター機能」も搭載。ロングメモリを搭載したオシロスコープはHD3シリーズ以外にも、競合他社含め、近年、各社より提供されるようになっているが、そうした長い波形の中から不具合を見つける作業は手間と時間がかかるという課題があった。同機能は、オシロスコープ側でrunt(ラント)や立ち上がり、立ち下りを最初の測定動作で取得。その情報を踏まえ、通常の挙動とはことある異常状態の波形を振幅値や立ち上がり時間から判断し、異常のある信号のみを検出してくれるというもので、上位のInfiniiumシリーズにはすでに搭載済みであったが、汎用オシロスコープであるInfiniiVisionとしてはHD3シリーズが初めての搭載となり、2日間にわたってデータを取得して異常を検知して、その部分を記録するといったことも可能になるという。

  • 100Mptsよりも長い信号の挙動を見ることができる

    セグメントメモリ機能とタイプスタンプ付きリスト表示機能を活用することで、100Mptsよりも長い信号の挙動を見ることができるようになった

  • フォルトハンター機能の概要

    フォルトハンター機能の概要

シリーズモデルとしては2ch品「HD302MSO」と4ch品「HD304MSO」を用意。いずれも標準状態では帯域幅は200MHz、メモリは20Mptsだが、オプションとして帯域幅の拡張ならびにメモリ拡張を購入することでメーカーに渡すことなくその場で性能向上を図ることができる。また、大型タッチディスプレイを採用しており、波形を分割して2×2の形で表示したり、帯域幅50MHzまでであればソフト的な処理により16ビット的な処理を可能とするハイレゾリューションモードも提供される。加えて、MSOの型番からも見て取れるが、ミクスド・シグナル・オシロスコープ(MSO)の機能ライセンスも標準付与されているほか、標準状態では500MHzのプローブがセットで提供されるが、オプションとして1GHzのパッシブプローブも提供。従来はアダプタを介して接続する必要があったが、HD3シリーズでは直接接続して使用することを可能とした。

  • 標準状態でもさまざまな機能が提供される

    標準状態でもさまざまな機能が提供されるが帯域幅やメモリ数を増やすのはオプションとなる

なお、同シリーズは同社のWebサイトならびに契約販売店経由ですでに購入が可能。価格は同社Webサイトの場合、標準状態で137万2344円(税別)から。1GHzのパッシブプローブは17万6000円(税別)から、重量5.25kg、筐体サイズ幅33.5cm×高さ26.2×奥行16.8cmと軽量・コンパクトであることから、可搬も可能で専用バッグ(4万4000円、税別)や液晶ディスプレイを保護するためのフロントパネル(別売り)なども用意されている。

  • 基本操作の多くがタッチパネル上のUIを介して行われる

    基本操作の多くがタッチパネル上のUIを介して行われる

  • 背面

    背面にはデジタル向け16chインタフェースやDisplayPortが用意されている