米国政府は、Texas Instruments(TI)に対し、CHIPSおよび科学法(CHIPS法)に基づき最大16億ドルを支給すると発表した。これは、米テキサス州に2つ、ユタ州に1つの合計3つの新たな半導体製造施設建設のためのTIの2030年末までを予定している180億ドルを超す投資を支援するものである。
コロナ禍の半導体不足が起こした経済の混乱
米商務省は、TIへの補助金支給の意義について、「新型コロナのパンデミックで起きたサプライチェーンの混乱の主因の1つが成熟ノードなどの半導体不足であり、米国の自動車、工業、防衛産業、および米国人の商品の入手可能性に深刻な影響を及ぼした。TIが3つの新施設に対して総額180億ドルを超す投資を計画することは、そうした成熟チップの米国内生産能力を向上させ、経済の混乱に対応する能力が強化されることとなり、CHIPS法の成功を支援するのに役立つ」と説明している。
今回支給される3つのファブ建設プロジェクトの概要は以下の通り。
- テキサス州シャーマン:65nm~130nmの主要チップを生産する2つの大規模300mmウェハ対応製造施設を建設。1日あたり1億個以上のチップ生産が見込まれる。この施設は、米国における300mmウェハチップのグリーンフィールド生産施設の1つである。
- ユタ州リーハイ:28nm~65nmのアナログおよび組み込みプロセッサを生産するための300mm製造施設の建設で、毎日数千万個のチップが生産される予定。このプロジェクトは、ユタ州史上最大の経済投資となる。
政府は教育投資や保育サービス投資を要求
米国政府は、補助金支給にあたり、TIの半導体および建設労働力の育成を支援するための1000万ドルの専用労働力資金の設置を要求しており、TIは将来を見据えた労働力の構築に注力し、現在の従業員のスキル向上、インターンシップの拡大、電子および機械のスキル構築に重点を置いたパイプライン プログラムの作成に投資することとなる。また、米国政府は、TIが将来の半導体人材育成に向け、米国全土の40のコミュニティカレッジ、高校、軍事機関と連携してプログラムを実現することも求めているほか、さまざまな育児手当を従業員に提供することも要求しており、施設近くで利用できる育児サービスを増やすために、追加のプロバイダーと提携することも要求している。この種の要求は、これまでのCHIPS法による補助金支給15件すべてに共通した要求であり、CHIPS法により補助金を受ける企業は、このようなさまざまな要求にこたえる契約書にサインしなければならない。
CHIPS法の残額は60億ドルほどに
米国政府の今回のTIへの支給決定により、これまでに16社が補助金支給を受け取ることが決まった。今回の16億ドルという額はIntel、TSMC、Samsung、Micronに次ぐ額だが、TIの投資総額の1割にも満たない。
また、TIを含めた16社への補助金総額は325億5590万ドルとなり、予算(390億ドル)の残りは64億4410万ドルほどとなる。CHIPS法による補助金支給を希望する企業は670社を超すとも言われているが、そのほとんどが受給は難しく、すでに支給を却下するとした連絡を受けた企業もあるという。商務省は、CHIPS2ともいえる補助金増額法案を議会に提出要請しているが、半導体だけ優遇するのは不公平との声もあり、法案の成立は難しそうである。