Keysight Technologiesの日本法人であるキーサイト・テクノロジーは8月1日、同社代表取締役社長として新たに寺澤紳司氏が就任したことを発表した。前任のチエ ジュン氏は、米国本社にてコア・プロダクト・マネジメントのバイスプレジデントに新たに就任し、業界をリードする設計、テスト、エミュレーションのソリューション開発の指揮を執るという。
寺澤新社長は、1988年に横河ヒューレット・パッカード(YHP)に入社して以来、キーサイトまで社名の変遷はあれど、同社一筋に勤務。ヨーロッパ・マーケティング・センターのビジネス開発マネージャやネットワーク・アナライザ事業部のビジネス開発マネージャ、半導体パラメトリックテスト事業部のマーケティング部 部長などを経て、2018年に本社バイスプレジデントおよび半導体テストソリューション事業部長に就任するなど、一貫して技術畑を歩んできた人物。キーサイトとしても、初の開発部門出身の代表取締役社長になるという。
AIを計測ビジネスに活用
キーサイトは主に電子機器の計測を中心に、ネットワークのテスト・計測など、さまざまな産業分野で求められる計測ニーズに応える製品やソリューションを提供してきた。そうした分野でも近年はAI活用ニーズが高まりを見せており、同社では主にAIに対して3つの柱の考え方で捉えているとする。
1つ目は「AI.Productivity」。同社自身が業務にAIを活用し、顧客に貢献していくことを目指すという取り組み。エンジニアの生産性向上に寄与するべく、反復的な作業やソフトウェアのコード生成、ソリューション自体のテストなどに活用を進めているとする。2つ目は「AI.Solutions」で、キーサイトのソリューションにAIを組み込むことで、顧客の生産性向上を実現する取り組みとなる。例えば、プライバシーを配慮しつつ、さまざまなケースによる攻撃に基づく情報漏洩を電子カルテシステムでは想定してテストを行う必要があるが、近年のシステムの高度化、多機能化などを踏まえると、いくらテストに時間をかけても、網羅性が担保できているのか、テスト品質に問題はないのか、といった懸念が付きまとうこととなる。同社は、こうした懸念を払しょくできるソリューションとして、2020年に買収したEggplantによるAIを活用したテストの自動化を提案しているという。
そして3つ目は「AI.Markets」で、AIマーケットそのものにツールを提供する取り組みとなる。例えば、自動運転の場合、シミュレーションを組み合わせて走行パターンの学習などを行う必要があるが、そうした用途に向けた車載のレーダーセンサが検出するレーダー波の反射状況をエミュレートする技術を提供。これにより、実車を走らせる前に、現実により近い条件でかなりの走行パターンを学習させることができるようになるという。また、AIデータセンターのボトルネックを解消することを意識したネットワークテストプラットフォームも提案。これにより、AIデータセンターの通信のどこにボトルネックが生じているのかを、実際にGPUを入手する前段階から把握して、実際にGPUを活用した運用の際に、そうした課題を解消することができるようになるという。
AIの要となる半導体産業の成長を支援
また、寺澤新社長は半導体パラメトリックテスト事業部にも関わっていたということもあり、日本を中心とした半導体産業への貢献も目指したいと抱負を語る。
同社は2023年、IC設計のデータ管理ソリューションを手掛けるCliosoftを買収し、EDAソフトの拡充を行っている。Cliosoftのソリューションは、各EDAベンダのツールと連携して、ドキュメントなどのバージョン管理を可能とする「Design Data Management(SOS)」や、さまざまなところに置かれているIPを提示してくれる「IP Management(HUB)」などといったもので、さまざまな半導体設計の際の活用が期待されている。
こうしたソフトウェアのほか、先般、同社は静電容量方式を用いた測定手法を採用することで、これまでのX線や電気的特性を調べる手法での測定課題を克服したワイヤボンディング欠陥評価装置を発表するなど、元からの潮流であるハードウェアも充実させている。
元々、同社は前身のアジレント・テクノロジー時代、半導体自動試験装置(ATE)の部門を有していた。その後、同部門はVerigy(ヴェリジー)として独立されたが(2011年にアドバンテストが買収)、パラメトリックテスタについては手元に残し、キーサイトが継承した(キーサイトのアジレントからの分社は2014年)。実は、こうした半導体向け計測機器の多くが、八王子本社のR&Dセンターで生み出されてきた(日本にはキーサイトの全世界22の研究開発拠点の内、2拠点がある。そのうちの1つが八王子)。
パラメトリックテストは、半導体デバイスの電圧や電流、信号入出力のタイミングなどが許容範囲に入っているかであったり、断線が生じていないかなどを測定するもので、電流や電圧の測定、周波数測定などの計測技術が活用される。同社のパラメトリックテストシステムも、詳細は言えないとしつつも世界中の半導体工場で使われていることを同氏は強調する。
また同氏は「すべてのベースになっているのが顧客とのパートナーシップ。説明が難しいが、最先端の研究の中で、開発された半導体デバイスがうまく動いているのかを評価する必要がある。そうした最先端デバイスを評価するためには、それよりも高い性能で計測ができる必要がある」とし、業界に先駆けたソリューションを提供していくことがキーサイトの使命であり、SiCやGaNといった次世代パワー半導体も技術的なチャレンジだとする。その一方で、そうしたパワー半導体のプレイヤーは日本にも多く存在しており、そうした次の市場を切り開こうとする日本の顧客の発展を支えるべく、新たなソリューションの提供を進めていきたいとし、20204年下半期中には、SiC/GaN向けテストソリューションが登場する見込みであることを披露した。
なお、同氏は日本での戦略として販売店との関係性を強化していきたいとしているほか、半導体テスタ事業に関しては、まだまだパラメトリックテストだけでも、高電圧やシリコンフォトニクスなどをはじめとして、半導体の適用アプリの幅が広がっていることを踏まえ、すべての市場機会に適応できていないとの見方を示しており、そうした拡がるニーズを踏まえた開発を続け、あらゆる半導体デバイスに対応するパラメトリックテストソリューションの構築を図っていきたいとしていた。