世界は急ピッチで変化し、進化を遂げています。これまで、新しい製品やテクノロジーを設計し、リリースするまでに年単位の時間が必要だったのが、今ではそれを数か月単位で完了するケースも見られるようになりました。エレクトロニクス業界で働く人にはエキサイティングな時代だと言えます。そして、設計に携わる者全員がスキルを高めて顧客のニーズに応えることが求められています。

市場の成長予測

今後どの分野の成長が見込めるかという質問をよく受けます。確実に言えるのは社会における問題解決に、必ずテクノロジーが伴うということです。ですから、エレクトロニクス業界にも成長の機会があります。

  • 電気自動車やハイブリッド車の進化はまだ始まったばかりです。この市場は飛躍的な拡大が見込まれており、自動車1台あたりに占める電子部品の割合も大幅に増加するとみられます。
  • 人工知能(AI)の登場で、私たちは暮らし方と働き方が大きく変わり、迅速な決定が可能になりました。
  • 代替エネルギーも、重要性と規模の面で成長と進化を続けています。AIの稼働を支えるために大規模なサーバーファームが構築され、電気自動車の数も増加していることから、効率的な発電、送電設備の増築の需要は高まる一方です。気候変動問題も太陽光発電、風力発電の効率化や他の持続可能なテクノロジーへの需要拡大に寄与しています。
  • ベビーブーム世代を中心にサポートを必要とする年齢に達した人の数が増えるにしたがい、医療の需要も高まっています。そうした需要増加に応えるには医療システムをどうすれば良いでしょうか。この世代の人々の健康増進に、テクノロジーはどのように貢献できるでしょうか。こうした課題に立ち向かう中で、自宅での診断や治療を提供するソリューションを中心に、イノベーションが次々と生まれるでしょう。

次の業界サイクルの展望

印象としては、近年のサイクルが急激かつ極端な形で変動しています。2018年の景気拡大期の後、パンデミックの影響で2020年前半の市況は急降下し、2021年から2022年にかけては需要の増加に追いつかず、供給制限を余儀なくされるという予想すらしていない事態に陥りました。

次のサイクルにあたる2025年は直近のサイクルよりも変動が緩やかで持続的かつ安定的な傾向になることが予測されます。すでに多くの分野で製品のリードタイムが短縮されており、在庫も徐々に増えつつあります。とはいえ、まだ安心はできません。現在の状況は複雑です。リードタイムが短縮したテクノロジーがある一方で、安定化したもの、いまだにリードタイムが長いままのものもあります。そのため、状況を熟知しているお客様は設計や製造時に柔軟性をもたせるベストプラクティスを実践しています。業界サイクルはウォールストリートで働くデイトレーダーの仕事と同じくらい予測が困難です。ですから、はじめから柔軟性を持たせて事業を進めて、次のサイクルに備えるのが良策です。

エレクトロニクス業界におけるAIの役割の拡大

AIは私たちの考え方、学び方を変えつつあります。AIの中核を占めるのはデータです。デジタル主導のeコマースディストリビューターにとって、データは生命を支える血液のようなものです。私たちはAIが持つポテンシャルに大きな期待を寄せています。ただし、当然ながらその使い方には十分な注意が必要です。AIをユーザー向けのサービスに適用する前に社内で複数の試験プログラムを実施する必要があります。

まず試験プログラム用のAIプラットフォームの開発が必要です。そのためDigiKeyでは、試験対象として関税分類表(HTS)コードとECCN輸出コードを選びました。輸出関連規則に順守するため、私たちが販売している部品1つ1つに分類コードが必要とされます。あらゆる規則や要件に対応するためには複数の専任担当者がそれに従事しなければなりません。しかし、部品へのコード割り振り作業を正確に実行してくれる新開発のAIプラットフォームにより、専任担当者は顧客対応に時間を費やすことができるようになりました。

私たちはAIを使ったフロントエンドアプリケーションの進化にも期待を持っています。これにより、ユーザーは製品番号でサイトを検索する必要がなくなり、その製品の用途を説明するだけで、必要な部品を見つけることができるようになります。例えば、「ある公差/電圧範囲/温度などのコンデンサーを探している」とAIに指定すれば、その要件を満たす製品を見つけることができます。

今後、AIは技術サポートで重要な役割を担い、設計、トラブルシューティング、予測でユーザーをサポートするようになります。

新しい形のサービス

DigiKeyが提供するリモートプラットフォームを使えば、ユーザーは複雑な環境をモデル化するシミュレーションツールに必要なときにいつでもアクセスできるようになります。こうしたシミュレーションツールはコストが高くつくことがあります。また、多くのユーザーがそれを必要とする期間は限られています。DigiKeyのパートナーであるLabsLandを利用すれば、シミュレーションツールを実質的に「リース」することができ、購入するよりも経済的かつ効率的です。

半導体業界の未来

近年、原材料や高級製品の生産拠点を1つの地域に集中させないことの重要性が増えています。米国の半導体の研究、開発、生産を後押しするCHIPS法に期待しています。しかし、これは長期的な政策であり、生産施設を開発してフル稼働させるまでには月単位ではなく年単位の時間が必要です。

この業界はエキサイティングな時期を迎えています。私自身、今後の展望に揺るぎない期待を抱いています。