宇都宮大学(宇大)、東京大学(東大)、九州大学(九大)、広島大学の4者は7月26日、先端半導体向けの「極端紫外(EUV)リソグラフィ」の光源を高効率化するためのマルチレーザービーム照射法を提案し、EUV光源を高効率化できることを実験的に実証したと共同で発表した。
同成果は、宇大学術院 工学部 基盤工学科の東口武史教授、同・森田大樹助教、宇大 地域創生科学研究科の杉浦使大学院生、同・矢澤隼斗大学院生、東大大学院 工学系研究科 原子力専攻の坂上和之准教授、九大大学院 システム情報科学研究院 電気システム工学部門の中村大輔准教授、理化学研究所(理研) 光量子工学研究センターの高橋栄治チームリーダー、米・パデュー大学 極端環境物質センターの砂原淳研究員、広大大学院 先進理工系 科学研究科の難波愼一教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
先端半導体の性能向上には、EUV露光機の消費電力の大半を占めるEUV光源の高出力化が不可欠だ。しかしその消費電力は莫大なものになっているため、消費電力の抑制が求められており、それを実現できる可能性がある手段の1つとして、波長が約2μmの固体レーザーを駆動用レーザーとして用いるが提案されている。その理由には、波長が約2μmの固体レーザーとCO2レーザーのEUV変換効率が同等であることが理論と実験でわかってきたこと、さらに固体レーザーの方がCO2レーザーよりも電気-光変換効率が高く、消費電力を抑えられることがある。
しかし、波長約2μmの固体レーザーをパルス動作かつ数十kHzで連続稼働させる時の1システムあたりの出力は、100Wにも満たないのが現状で、固体レーザーの1システムあたりの出力を、CO2レーザーと同等の数十kW級にするためには、まだ多くの技術的な課題が存在する。また、この固体レーザーの出力を制限するのは固体レーザー結晶や内部の光学素子の損傷(ダメージ)であり、同様に多くの技術課題があるとする。
そこで研究チームは今回、レーザー装置1システムあたりのパワーが1kW級だったとしても、複数レーザー装置、複数レーザービームを同時にターゲットに集光照射することで、EUV変換効率を増加させられることを確かめたという。
そして、EUV光源の駆動用レーザーの入射する1回あたりの全照射エネルギーを500mJ、1パルスあたりのレーザー強度(パワー密度)を2×1011(1000億)W/cm2としてスズ(Sn)プラズマを発生させると、1ビーム(500mJ/pulse)だけの高エネルギーパルスを照射する時よりもビームを分割した方がEUV変換効率が高くなることが判明した。
さらに、2ビームに分割し(1パルスあたりのエネルギー:250mJ/pulse)、Snターゲットへの入射角を60°にすることで、EUV変換効率を4.7%(波長1μmの代表的なナノ秒固体レーザー(Nd:YAGレーザー)をSn平板に照射した時のEUV変換効率の世界最高記録)を達成し、1ビーム(1パルスのエネルギー:500mJ/pulse)の約2.8倍と大幅に改善することに成功したとする。
次に2~5ビームまで分割し、レーザーパルスのSnターゲット入射方向を変化させ、EUV変換効率を調べたところ、いずれの場合も1ビームだけを照射する時よりもEUV変換効率は増加し、その値は2.4~4.7%だったとした。またレーザービームを複数個用意する時、1台のレーザー装置のビームを分割する必要はなく、出力エネルギーの小さな複数台のレーザー装置からの照射でも問題ないことも突き止められた。これは、1機あたりのレーザー出力を低減できることを意味する。
さらにそれに加え、複数のレーザービームを入射しても、それぞれのレーザー強度を同じにすることで生成されるプラズマ状態はほぼ同じであることも確かめられた。その一方で、なぜこのようになるのかの詳しい仕組みは解明できていないことも多いとする。そして今後、放射流体シミュレーションなどによる数値解析が必要とした。
研究チームによると、今回の研究成果は、高繰り返し動作での多重レーザーパルス照射が、将来の高出力EUV光源およびEUV技術ノードに向けた、露光ツールの革新的技術になり得ることを示しているとのこと。また、今回の成果は駆動用レーザーの消費電力を抑制できることを意味し、EUV光源の高出力化と省エネ化に大きく貢献できるとしている。