日本NPOセンターらは7月23日、NPO職員のITスキル向上を支援する取り組み「NPTechイニシアティブ」の進捗について、メディア向けに説明会を開催した。この取り組みは、参画企業がNPO職員のデジタルスキル向上に特化した研修プログラムなどを提供するイニシアティブで、2023年に開始した。

なお、NPTechとはNonProfit Technologyの略であり、NPOのデジタル活用を目指した活動を指す。2023年度は計4回の基礎セミナーが開かれ、ITリテラシー、データ保存、セキュリティ、ITトレンドに関する入門レベルの知識が共有された。

  • 記者説明会フォトセッション

    記者説明会フォトセッション

  • NPTechイニシアティブはロゴを刷新した

    NPTechイニシアティブはロゴを刷新した

2023年度の成果と2024年度の展望を語る

取り組みの開始時点から参画しているNTTデータ、デル・テクノロジーズ(以下、デル)、インテル、TISに加え、2024年からは伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)も参画する。各社から2023年度の進捗と2024年度の展望が紹介された。また、2024年からプログラムに賛同する国立女性教育会館からは、期待と展望が語られた。

日本NPOセンター

日本NPOセンターは2019年から2021年まで、NPOが活動する現場にSTO(Social Technology Officer)を創出するためのプロジェクトを推進してきた。2022年からはプログラムを支援する団体や企業を増やして、活動基盤の強化を図った。その後、2023年にNPTechイニシアティブの本格稼働を開始し、多くのNPOに対し直接的なIT研修を提供している。

NPTechイニシアティブは2023年度に計4回の基礎セミナーを開催。144団体が研修プログラムに参加したという。セミナーに対し「学びが多かった」と回答した団体は80%ほどとのことだ。また、「セミナーの内容が生かせそう」との回答も78%あり、満足度が高かったことがうかがえる。今後取り上げてほしいテーマには63の回答が寄せられている。

  • 2023年度の活動実績

    2023年度の活動実績

同センターは2024年度、「広げる」と「深める」をキーワードとして活動を進める予定だ。前年から参画する4社に加えてCTCと国立女性教育会館も参画し、コレクティブ・インパクト(行政、企業、NPO、市民などが共通のゴールに向けて協力するアプローチ)により、日本の社会課題解決を目指す。

日本NPOセンター事務局次長の上田英司氏は「2024年は最先端のデジタル技術を知る機会を作りNPOのデジタル活用のきっかけとするため、NPOデジタル1Day留学などを企画している。多くの参画企業の協力を得ながら、広げる、そして深めるための取り組みを続けていく」と述べていた。

  • 日本NPOセンター 事務局次長 上田英司氏

    日本NPOセンター 事務局次長 上田英司氏

NTTデータグループ

NTTデータグループは「Realizing a Sustainable Future」をスローガンに、経済、環境、社会の3軸でサステナビリティ経営に取り組んでいる。また、これらの3軸をさらに細分化し、9つのマテリアリティ(重要課題)を設定。社会課題を起点としたソリューションやサービスの開発に取り組む人を増やすべく、全社共通のKPIとして、全社員の8割が社会課題解決を目的とするワークショップや支援活動へ参加することを目標にしているそうだ。

  • NTTデータの社会課題解決に向けた取り組み

    NTTデータの社会課題解決に向けた取り組み

同社は2019年からNPOの現場で活躍するIT人材を増やすために、日本NPOセンターと共にSTO創出プロジェクトを立ち上げた。2023年度はNPTechイニシアティブの活動を通じて、パソコンの選び方など入門的な内容を扱う「ITリテラシー講座」や、AIの専門家による「ITトレンド」などの研修を開催した。

NTTデータグループ 執行役員の池田佳子氏によると、NPTechイニシアティブのようなプロボノ(専門知識を持つ人材が社会的・公共的な目的のために職業上のスキルを提供するボランティア活動)により、社員にとっても社会貢献活動で専門性を発揮するきっかけになっているそうだ。

池田氏は「当社はこれからもNPTechイニシアティブを通じてNPOスタッフのデジタル利活用を促進し、NPOの社会課題解決能力の向上をサポートすることで、サステナブルな社会の実現に寄与していく」とも語っていた。

  • NTTデータグループ 執行役員コーポレート統括本部サステナビリティ経営推進部長 池田佳子氏

    NTTデータグループ 執行役員コーポレート統括本部サステナビリティ経営推進部長 池田佳子氏

デル・テクノロジーズ

デルはNPTechイニシアティブの前身となるSTO創出プロジェクトに、2022年から参画している。2023年にはデータ保存入門のセミナーを開催し、デジタルデータの保存と保護について、NPOに情報を提供した。セミナーには41団体が参加し、74%の参加者が講義に満足したと回答したという。また、70%が講義内容がITスキルの向上に役立つと回答した。

同社は2024年の活動として、10月開催の年次イベント「デルテクノロジーズフォーラム」にNPOの担当者を招待する「1Day留学」を開催する。講師らによる会場展示の説明やセミナーへの参加を通じて、現場を体験する機会を提供する。さらに、1Day留学に参加したNPO担当者からのフィードバックに応じて、11月にフォローアップセッションを開催予定だ。

デル 上席執行役員兼テレコムメディア営業統括本部長の日下幸徳氏は、「個人的な話になるが、以前からNTTデータがNPOのサポートに熱心に取り組んでいる様子を見て、感銘を受けていた。何か一緒にできることは無いかと思っていたので、このように大きな取り組みとして発展させられたことが非常に嬉しい」とコメントしていた。

  • デル 上席執行役員 兼 テレコムメディア営業統括本部長 日下幸徳氏

    デル 上席執行役員 兼 テレコムメディア営業統括本部長 日下幸徳氏

インテル

「AI Everywhere」(あらゆる場所でのAI活用)を掲げるインテルは、クラウドだけでなくクライアントPCやエッジまでAIの活用場面が広がるとして、AIに関連した講座やセミナーを展開している。「AI for Citizens」や「Intel AI for Future Workforce」など、AIを冠したプログラムを複数実施中だ。

インテル 執行役員の高橋大造氏は「AIに特化した学習プログラムを、今後は企業だけでなくNPOの皆様にも展開することで、より新しい技術の理解や習得を支援できれば。AI活用の場が広がる中で、PCスキルの基礎に加えてAIの導入に関する研修やセミナーも計画していきたい」と述べていた。

  • インテル 執行役員 パートナー事業本部 本部長 高橋大造氏

    インテル 執行役員 パートナー事業本部 本部長 高橋大造氏

TIS

TISは2023年度のNPTechイニシアティブの活動において、ITセキュリティに関するセミナーを実施した。情報セキュリティはデジタル技術を使うに際に必須とされるリテラシーであるため、このテーマを選択したとのことだ。

  • TISインテックグループのサステナビリティ経営

    TISインテックグループのサステナビリティ経営

セキュリティをテーマとしたセミナーには60人のNPO担当者が参加。なぜ情報セキュリティが必要なのかや、情報セキュリティの基本、日常での情報セキュリティ対策について解説した。

参加者に対しアンケート調査を実施したところ、「結局は人的被害を抑えること、データを扱う側のリテラシーが大事ということを再確認できた」「セキュリティのためには個人の意識を上げることが大切だと分かった」「セキュリティの重要性が理解できた」といった意見が寄せられたそうだ。

TIS コーポレートサステナビリティ推進室 室長の守安紀子氏は「2024年度にはITシステム開発について、ITベンダーへの発注の方法について研修を実施する。ITシステムを使ってみたいと思っているNPOの方に向けて、何から始めてよいか分からないといった問題を解決できれば」と、2024年の予定を紹介した。

  • TIS 企画本部 企画部 コーポレートサステナビリティ推進室 室長 守安紀子氏

    TIS 企画本部 企画部 コーポレートサステナビリティ推進室 室長 守安紀子氏

伊藤忠テクノソリューションズ

CTCは2024年度からNPTechイニシアティブに参画する。社会からの要請への対応と自社の強みの強化につながる活動として、同社は気候変動への対応と人権尊重を特に重視しているという。そうした中で、生物多様性を学ぶための社内勉強会の開催やCTC未来財団への支援など、さまざまな社会貢献活動を継続してきた。

  • CTCの社会貢献活動の例

    CTCの社会貢献活動の例

同社が実施した社内アンケートの結果、マテリアリティを意識した仕事に取り組みたいかについて聞いたところ、88%の社員が「はい」と回答。この割合は前年の調査と比較して24ポイント上昇しており、社内でもマテリアリティを重視する機運が醸成されつつあるという。

しかしその一方で、「社会課題を身近に捉えにくい」「具体的にどのような活動をしているのか分からない」との意見も挙がったそうだ。そこで同社は、社会課題を理解する実践の場として、NPtechイニシアティブへの参加を決定した。

NPtechでは、社会貢献活動を通じて、社会課題とビジネスをつなげられる人材を増やすことを目的とする。また、「デジタル技術とそれを生かす技で多くの人々が恩恵を受けられる社会づくりに取り組む」をテーマとして、デジタルディバイドの解消に向けた施策を展開する予定だ。

CTC サステナビリティ推進部部長の渡邊香織氏は 「当社は社会貢献活動において、社員全員がアクションできる環境づくりを目指す。社内で現在実施中のエンゲージメント調査の結果も参考にしながら、CTCらしい指標も検討中。次の機会には具体的な成果を発表できたら」と抱負を語った。

  • CTC サステナビリティ推進部 部長 渡邊香織氏

    CTC サステナビリティ推進部 部長 渡邊香織氏

国立女性教育会館

国立女性教育会館(NWEC:ヌエック)も2024年から参画を表明している独立行政法人だ。全国に355ある男女共同参画センター職員の多くは必ずしも十分なITを有しているわけではない。そこで、今後各地のセンターがミッションを果たしていくうえで必要となるデジタルスキルとリテラシーを向上させるための学習機会の場として、NPtechイニシアティブが開催するセミナーを利用する。

国立女性教育会館 理事長の萩原なつ子氏は「女性のデジタル人材育成プログラムを各地の男女共同参画センターと連携して開発・実施することが求められる中で、NPTechイニシアティブへの参画が、関係企業とのネットワーク形成やプログラム開発に有用な知見とニーズの把握につながってほしい」と、NPtechイニシアティブ参画への期待を述べていた。

  • 国立女性教育会館 理事長 萩原なつ子氏

    国立女性教育会館 理事長 萩原なつ子氏