ダイセルと大阪大学(阪大)の両者は7月17日、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の性能を向上させるための、銀とシリコンの複合焼結材料の新開発に成功したことを共同で発表した。

同成果は、ダイセル、阪大 産業科学研究所 フレキシブル3D実装協働研究所のチン・テントウ特任准教授(常勤)らの共同研究チームによるもの。

脱炭素化社会を実現するためには、エネルギーのより効率的な利用が必要になる。そのため、電気自動車(EV)や鉄道、さらに将来的には船舶や航空機なども電動化が進むと想定されるため、それらの電力変換ロスを低減したり、機器を小型軽量化したりすることを可能にする、パワー半導体の高性能化が重要となる。

現在のパワー半導体は、既存の半導体の製造に使われているシリコンが用いられているケースが多い。しかし、より大きな電力を扱う場合にはシリコンは適しておらず、より適したSiCや窒化ガリウムなどの実用化がすでに進んでいる。SiCパワー半導体のさらなる普及が期待されているが、現状では200℃を超える高温環境下では動作上の問題を抱えているという課題を解決する必要があった。その課題の解決には、安定的な動作を保証するための耐熱・放熱技術や、構造信頼性を維持する材料の開発が重要だが、その開発は遅れているという。

こうした高温動作の課題に対しては、現在までに銀ナノ粒子(粒径が100nm未満)焼結接合技術の活用が主に検討されている。しかしそれも厳しい熱衝撃試験(-50~250℃)では、銀接合層と半導体デバイス接合界面(境界)に亀裂が発生したり、構造が破壊されるなど、多くの課題を残していた。そこで研究チームは今回、銀とシリコンの新接合材料の開発を試みたとする。

今回の新接合材料は、銀とシリコンの接合界面におけるシリコン表面に酸化膜ができることで、低温界面が確実に形成され、低い熱膨張係数の接合材料を実現し、界面亀裂の発生および構造破壊の問題が大幅に改善されたとのこと。さらにシリコンの添加量を調整することにより、熱膨張係数の制御が可能となったという。

また、今回の研究で開発された銀とシリコンの複合焼結材料を、SiCパワー半導体とDBC基板(Cu回路付きセラミック基板)の接合材料として使用することで、SiCパワー半導体と接合材料の熱膨張ミスマッチを低減させることに成功。厳しい使用環境においても、接合界面の亀裂や構造破壊を起こりにくくすることができ、優れた接合信頼性を得ることが可能になるとする。さらに、シリコンを加えることにより、従来の銀のみの接合材料と比較して材料コストの削減につながることも期待されるとした。

  • (a)SiCパワー半導体とDVC基板との接合構造。(b)銀とシリコンの接合界面におけるシリコン表面の酸化膜。(c)熱衝撃試験での1000サイクル後の構造内部の劣化比較

    (a)SiCパワー半導体とDVC基板との接合構造。(b)銀とシリコンの接合界面におけるシリコン表面の酸化膜。(c)熱衝撃試験での1000サイクル後の構造内部の劣化比較。銀のみを使用した従来材料の接合構造と比較し、亀裂が小さくなり数も減少。(d)厳しい熱衝撃試験(-50~250℃)において、銀とシリコンの複合焼結材料は、銀のみの従来材料と比較し接合強度維持率が約2倍に(出所:阪大 産研Webサイト)

研究チームによると、今回の成果は、SiCパワー半導体の長寿命化と、その実装構造の信頼性向上、ならびに接合材料コストの削減につながるとのこと。EVへの応用など、新世代パワー半導体モジュールの社会実装を一気に加速させることが期待されるとしている。