東京大学(東大)と北海道大学(北大)は6月24日、地球の深度約2900km付近の金属コア(外核)と岩石のマントルとの境界付近の「コア-マントル境界(CMB)領域」に相当する超高圧高温条件下で合成された二酸化ケイ素(SiO2)相中の含水量を測定した結果、CMB領域まで水を輸送するSiO2相は、超高圧高温条件下でも脱水せず、水を保持したままマントル浅部へリサイクルすることを明らかにしたと共同で発表した。

また、CMB領域の地震波観測が示す大きな化学的不均質は、水によって作られたものではないことが判明し、代わりに地球誕生時のマグマオーシャンに起因する可能性が高いと示唆されたことも併せて発表された。

同成果は、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の堤裕太郎大学院生、同・廣瀬敬教授、北大の坂本直哉准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球・惑星科学に関する全般を扱う学術誌「Nature Geoscience」に掲載された。

  • 地球深部の環境を実現可能なダイヤモンドアンビルセル装置

    (左)地球深部の環境を実現可能なダイヤモンドアンビルセル装置。(右)高圧高温下で合成された試料(出所:北大プレスリリースPDF)

主に玄武岩質の海洋地殻とその下のマントルの岩石で構成される海洋プレートは海嶺で生まれ、海底を地質学的な長い時間をかけてベルトコンベアのように移動し、そして海溝で沈み込んで地球内部へと再び戻っていく。この沈み込む時の海洋プレートはスラブと呼ばれ、そこには水が含まれており、水はスラブの沈み込みと共にマントル深部まで運ばれることがわかってきている。地球内部まで沈み込むとスラブは脱水を起こし、日本に代表される沈み込み帯の火山活動、さらには一部の地震活動の原因となっているという。

マントルの底部は、そのすぐ下に位置するコア(の外核)によって加熱され、その温度は絶対温度4000K(約3727℃)近くに達していると推定されている。これまで、そのような高温下で、SiO2相も脱水して水を失うと考えられてきた。また脱水した水が、マントル最下部の融解を引き起こして大きな化学的不均質を作り、さらにはコアの金属鉄と反応し超酸化的な物質を作ると考えられてきた。このような超酸化的な物質がマントル浅部へ運ばれることにより、地球表層が酸化的になったという議論もあったという。そこで研究チームは今回、実際にマントル底部に相当する超高圧高温下での実験を行い、SiO2相の含水量を調べることにより、スラブからの脱水を検証することにしたとする。

  • 今回の実験の圧力温度条件と平均的なマントルとスラブの温度分布

    今回の実験の圧力温度条件と平均的なマントルとスラブの温度分布(ジオサーム)。今回の実験の圧力温度条件はCMB領域の約135万気圧・4000Kに対応している(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究では、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置を用いて、スラブの主要構成物質である含水中央海嶺玄武岩が高温高圧にされた。同装置は、先端が尖った2つのダイヤモンドの間に試料を挟み、加圧した後、レーザーを照射して試料を高圧高温状態にするというもので、地球中心の極限環境(364万気圧、5400K(約5127℃))すら超える高圧高温を発生させることが可能。

加熱後の試料に対し、まず、大型放射光施設SPring-8でX線回折測定を行い、SiO2相の結晶構造が確認された。次に、加熱箇所の断面が切り出されて分析が行われた。すると、中心に急冷凍結された「シリケイトメルト」、その周りをSiO2相が覆う構造が得られた。その後、北大の同位体顕微鏡を用いて試料断面の水を定量した結果、下部マントルの圧力条件下で、圧力が上がるにつれてSiO2相中の水の量が多くなり、マントルの底でも2wt%の水を保持することが突き止められたとする。

  • 回収試料の電子顕微鏡による組成マップと同位体顕微鏡による水素の分布

    回収試料(上段)の電子顕微鏡による組成マップ(中段)と同位体顕微鏡による水素の分布(下段)。SiO2相に水がwt%単位で入っていること、高圧になるとシリケイトメルトよりも多くの水がSiO2相に入っていることがわかる(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究成果は、沈み込んだスラブはCMB領域でも脱水せず、そのままマントルの浅い部分へリサイクルしてくることを意味しているという。ゆえにCMB領域の化学的不均質は、水とは無関係と考えられるとする。代わりに、地球形成時のマグマオーシャン(地球全体がマグマ状態だった)に起因する可能性があるとした。固体のマントルに比べて、マグマは圧縮性に富むため、マントル深部ではマグマが固体マントルよりも重たくなり、マントルの底へ沈む可能性がある。そのようなマグマは、表面を覆うマグマオーシャンとは別に、固体マントルの下にもう1つの基底マグマオーシャンを形成することが推測される。その結晶化の後期に形成された、鉄に富む重たい固体物質が未だにマントル最深部に存在することが、大きな化学組成の原因と考えられるとした。

  • 実験圧力とSiO2相中の水の関係

    実験圧力とSiO2相中の水の関係。高圧になるほど、CaCl2-type SiO2相中(塗りつぶしシンボル)に多くの水が入る。CMB領域で安定なα-PbO2-type SiO2相中(白抜きシンボル)にも、2wt%ほどの水が入る(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究により、マントル深部における水の大循環が解明された。水を持つSiO2相中では、水素が超イオン状態にある可能性があり、その場合は大きな電気伝導度を示すことが期待されるという。研究チームは今後、そのような電気伝導度を実験室で決定し、下部マントルの電気伝導度の観測結果を使って、水を持つSiO2相の分布、つまり下部マントルにおける水の分布を詳細に明らかにしたいとしている。