先端半導体を巡る世界中の懸念は今後も続きそうである。5月20日、台湾では新政権が発足し、新たな台中関係が幕を開けた。

2024年1月の総統選挙で勝利した頼清徳新総統の就任式が行われ、50以上の国と地域の代表団500人あまりが参加し、日本からも30人あまりの国会議員が参加した。頼氏は、対中関係についてこれまでの現状維持路線(台湾独立も宣言しないし、中国との統一もない)を強調し、台湾と中国は互いに隷属しないと主張した。要は、台湾を中国の一部とする中国の習政権の主張を真っ向から否定したのだ。これに対して、中国側はさっそく反発し、頼氏の主張は敵意と挑発に満ち溢れ、台湾独立の立場がさらにエスカレートしており、必ず懲罰を与えるとけん制した。

そして、頼氏の就任直後、中国人民解放軍で台湾海峡を管轄する東部戦区は、台湾本土の北部や東部、南部の海域、中国大陸に近い金門島や馬祖島などで大規模な軍事演習を2日間の日程で行った。軍事訓練には海軍、陸軍、空軍、ロケット軍が参加し、打撃訓練や戦闘準備のパトロール、実戦訓練などが行われた。

このような台湾本土を包囲するような軍事演習は、一昨年8月にも行われた。2022年8月に当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問した際、中国は今回のような軍事訓練を実施して台湾を軍事的にけん制し、周辺海域にむけて弾道ミサイルを発射した。そのうちの5発は日本の排他的経済水域に落下した。

頼総統の就任直後の軍事演習は、独立的な動きを進めれば軍事行動を躊躇しないという中国側の意思を示すものだが、中国軍機による台中の中間戦越え、台湾の防空識別圏への侵入など常態化している軍事的挑発は今後も頻繁に見られるだろう。

一方、経済的な締め付けも展開される。中国は5月末、台湾からの輸入品に対する関税優遇措置で新たに134品目を対象から除外することを発表した。6月15日から除外されるということだが、中国は今年1月から合成樹脂や化学製品の原料となるプロピレンなど12品目を関税優遇措置の対象から除外しており、今回の措置はその延長線上にある。

また、中国は蔡英文政権の時、台湾産のパイナップルやマンゴー、柑橘類、高級魚ハタなど2000品目以上の輸入を一方的に停止するなど、いわゆる経済的威圧を仕掛けたが、中国経済に大きな被害が出ない範囲で経済攻撃も発動してくることだろう。

一方、現時点で台湾有事の発生確率は高くはないが、中国が海上封鎖という手段に打って出てくる可能性がある。日本と同様、台湾は石油や石炭、天然ガスなど主要エネルギーの大半を外国からの輸入に依存しているが、それらは海上貿易によって台湾に輸送される。しかし、中国が台湾の港湾施設を含めた周辺海域の海上封鎖を実行すれば、台湾のインフラは短期間のうちに機能不全に陥り、それによって十分な電力を賄うことができなくなれば、半導体の製造もできなくなる。台湾を包囲するような軍事演習は、海上封鎖を想定したものである可能性もある。

この海上封鎖は日本経済にも多大な影響を与える可能性がある。台湾東部や南部は日本のシーレーン上にあり、東南アジアや中東、欧州やアフリカなどから日本へ向かう石油タンカーや民間商船がそこを航行する。頼政権の台中関係も冷え込んだものになるのは確実で、日本企業としてはその行方を緊張感を持って注視していくことになろう。