COMPUTEX 2024の初日にあたる6月4日に行われたMediaTekの基調講演で、同社がクラウドサーバ向けチップ市場に参入することが明らかにされた。

事前に公開されたプレスリリースでは、Diemnsionシリーズに加え、AIoT向けのSoCというべき「Kompanio 838」に関して発表することを匂わせる内容であったが、蓋を開けるとまったく内容が異なっていた。

まず同社は、Ubiquitous AIを同社のHybrid Computingで実現する(Photo01)とした上で、EdgeからCloudまでのソリューションを提供すると重ねて説明(Photo02)。

  • ここでCloudの文字が登場した時点ですでに不穏である

    Photo01:ここでCloudの文字が登場した時点ですでに不穏である

  • 右3つはそれなりにこれまで蓄積を重ねてきたが

    Photo02:右3つはそれなりにこれまで蓄積を重ねてきたが、左端のうちCloud向けは当然存在しなかった

まずはEdgeというか、事実上はスマートフォン(スマホ)向けSoCであるが、2019年からの5年間で性能を大幅に増やし(Photo03)、それでいて大幅に消費電力を削減した(Photo04)と説明。最新のDimensity 9300+は競合に大きな差をつけているとした(Photo05)。

  • CPU/GPUはArmのIPを利用している

    Photo03:CPU/GPUはArmのIPを利用しているが、NPUはMediaTek独自である

  • これに大きく貢献したのはプロセスの微細化だろう

    Photo04:これに大きく貢献したのはプロセスの微細化だろうが、もちろんそれだけではない

  • Compuitngの68TOPSはNPUだけでなくCPUとGPUも組み合わせた場合の数値

    Photo05:AI Compuitngの68TOPSはNPUだけでなくCPUとGPUも組み合わせた場合の数値である

次が自動車向けに今年3月に発表したDimensity Auto Cockpitの話で、これはNVIDIAのDRIVE technologyを組み込んだ製品であるが、競合に比べて大きく性能を伸ばしているとする(Photo06)。

  • “vs. 2024 Auto Platform”が具体的に何を指すのかは不明

    Photo06:この“vs. 2024 Auto Platform”が具体的に何を指すのかは不明

さてここからが今回の肝である。同社は新たにクラウド向け製品を、Arm Neoverseをベースに投入することを明らかにした(Photo07)。

  • これまで同社はCloud側に関してはCSP任せだった

    Photo07:これまで同社はCloud側に関してはCSP任せだった

なぜ? という話であるが、今後このマーケットは急速に伸長、2028年のTAMは450億ドルに達すると見ているためだ(Photo08)。

  • カスタムアクセラレータの市場が大きいとみているようだ

    Photo08:ただArm Custom CPUそのものは15億ドルが50億ドルになるだけで、そんなに大きいわけではない。むしろカスタムアクセラレータの市場が大きいとみているようだ

ある意味そろそろスマホ市場がやや飽和状態になってきており、新たな成長のための市場としてクラウドサーバに目を付けた、ということだろうか。同社はここに向けて、AIアクセラレータを構築するための要素材料をいろいろ抱えており(Photo09)、これを利用してカスタムアクセラレータで大きくマーケットを掴みたい、と考えているようだ。

  • Custom SoC設計サービス向けの要素技術と見えないこともない

    Photo09:これだけ見ていると、むしろBroadcomとかMarvellの様な、Custom SoC設計サービス向けの要素技術と見えないこともない

具体的には、TSMCのN2(2nmプロセス)を使ったArm NeoverseベースのCPUをChipletで構成することを想定している(Photo10)。

  • 製品が出てくるのは早くて2025年後半

    Photo10:ということは製品が出てくるのは早くて2025年後半、現実問題としては2026年以降ということになる

興味深いのは、2.5D and 3D PackageにInFO-R、CoWoS-S/Lに並んでEMIBがある一方で、SoICはあってもFoverosは無い事だ。一体Intel Foundryをどう使うつもりなのか、かなり興味があるところだ。あるいはEMIBというのはIntelのEMIBそのものではなく、Organic InterposerにSilicon Interposerを部分的に埋め込む技法をEMIBと称しているのかもしれないが、今のところIntel Foundryl以外でこれを提供しているメーカーは存在しないわけで、EMIBのためだけにIntel Foundryも併用するという事なのだろうか? ちょっと謎である。

ちなみにこのカスタムChipletはトランジスタ数が700億に達すると同社は予定している(Photo11)。

  • Dimensity 9300+が227億トランジスタ

    Photo11:Dimensity 9300+が227億トランジスタだから、その3倍以上という事になる

また要素技術として、すでに112G PAM-4 PHYが自社技術で利用可能であり、今後は400G+(224G PAM-4?)やSilicon Opticsに関しても予定しているという話であった(Photo12)。

  • 224Gに関してはすでに5nmプロセスを使って他社で量産がスタートしているからまぁ確実だろう

    Photo12:224Gに関してはすでに5nmプロセスを使って他社で量産がスタートしているからまぁ確実だろうが、400G+は3nm世代で可能なのか、2nmまで必要なのか、あるいは実現したとして到達距離はどの程度なのか、とかいろいろ謎は多い

これとは別に、クライアント側に関して言えばすでに同社は広範なコネクティビティの技術を抱えており(Photo13)、こうしたものもハイブリッドコンピューティングに役立つとしている(Photo13)。

  • Silicon OpticsもIn-Houseで実現するつもりなのだろうか?

    Photo13:Silicon OpticsもIn-Houseで実現するつもりなのだろうか?

基調講演ではさらにAI技術の実装例として、スマホの上でLoRA FusionとかSDXL Turboをローカルで実装してほぼリアルタイムで動かすデモなどが行われたが、これはまだクライアントサイドに留まっている話である。将来的にAIアクセラレータを売りにするのであれば、これをそのままサーバに持ってきてもニーズに合わないと思うので、何かしら別の技術が必要だろうし、もっと言えばこのマーケットは推論というよりも学習向けではないかと思うが、学習向けはNVIDIAの牙城であり、そこにMediaTekが進出することをNVIDIAは快くは思わないだろう(Photo15)。

  • Wi-Fi 7 “and Beyond”がちょっと怖い

    Photo14:Wi-Fi 7 “and Beyond”がちょっと怖い

あと根本的な話として、MediaTekが自前でCloud Service Provider(CSP)を始めるわけではないだろうから、どこかのCSPに採用してもらう必要があると思うのだが、誰が採用してサービスするのかが今のところ見えていない事だろう。主要なCSPはほとんどが自社でArmベースのCPUを開発しており、そうなると今のままなら競合はAmpere Computingあたりで、Tier 2のCSP狙いという事になるが、その市場はMediaTekが期待するほど大きいのか、ちょっと疑問である。今後のMediaTekの動向は、かなり興味深いものになりそうだ。