世界で最も古い職業のひとつとされている農業は今、急激な変化の時期を迎えています。人里離れた場所で一日の大半を手作業に追われ、電話やケーブルテレビ、インターネットとは無縁の生活を送る --「農家」と聞けばそんな素朴な風景を思い浮かべがちですが、現代ではどの国でもそのようなステレオタイプは過去のものになりました。

現代の農家は世界的な食糧需要の高まりに対応するため、農業テクノロジー(アグテック)ソリューションに熱い視線を注いでいます。気候変動、労働力不足、コスト増、キャリアとしての農業の魅力のなさなどの複合的な要因により、職業としての農業は複雑さと困難さが増しています。

一方、アグテックの進歩により、収穫のスマート化、農機具の電動化、情報に基づいた判断を行うための的確なデータ収集が実現するようになっています。さらに、世界各地にインターネット接続が普及した結果、僻地や高地の農地においても高速なデータ通信を利用できるようになりました。

アグテックソリューションの中でも急速に主流になりつつあるのが精密農業です。精密農業では草刈りや害虫の防除、家畜の管理、農機具のメンテナンス、土壌の状態管理など、農作業をより正確かつ効率的にこなすための技術が活用されています。

農作業には膨大なエネルギーと資源が必要とされます。それをより効果的かつ効率的に利用し、すべてに恩恵をもたらすのが精密農業の目標です。現代の農場では持続可能な自動化ソリューションによってワンランク上の農作業を実現するテクノロジーが使われています。

進化を可能にするテクノロジー

農地にテクノロジーが導入されるようになったのは1980年代と1990年代です。この時代は農作業で農薬や化学薬品を使用することに対する社会の目が厳しくなりました。また、GPS技術の進歩によってトラクターやコンバインにGPSが搭載されるようになりました。

その後数十年にわたって接続ソリューションが進化し続け、ついにクラウドとエッジの両方で世界的に高速データ通信が可能になりました。さらに近年、光学加工技術の向上、人工知能の進歩、Solid State式LiDARの導入など、自律型ソリューションの能力が加速度的に向上しており、これらすべてが精密農業の進歩につながっています。

精密農業をフル活用するには強固な基盤、つまり豊富なデータポイントが必要です。データはさまざまなハードウェア/ソフトウェアソリューションで収集、測定されます。

今やセンサは農業の現場で最もよく使用されているハードウェアソリューションのひとつであり、判断に必要なデータの収集に欠かせません。農業用センサは非常に頑丈で、高温や低温、異常気象、化学薬品、汚れ、振動、動物など、多くの環境要因に耐性を持っています。

そのため、多くの農機具に備わっているセンサは磨耗や破損を考慮して設計されているだけでなく、デザイン面においてもしっかり保護されて目立ちにくい場所に配置されています。

アグテックで使用されるセンサは他の多くの部品で見られる「小型化」の流れに逆行する傾向があります。というのも、農機具はサイズが大きく、他の電子機器と一緒に装着したり、内部に保護部品を設けたりするスペースがあるからです。

センサ技術の進歩は最終的に、農機具の位置決めやモニタリング、水分や日照の検知などの精度の向上やオペレーターにとっての快適性の向上というメリットを農家にもたらします。

  • センサ技術の進歩

    センサ技術の進歩は最終的に、農機具の位置決めやモニタリングなどの精度の向上を農家にもたらします

メリットの享受

数十億もの人々の生活が農家とその生産物に依存しているため、この問題は非常に重要です。現代農業に失敗は許されません。

世界人口の増加と気候変動による耕地面積の縮小が続くなかで、世界の食糧需要は増加の一途をたどっています。そのため、農家には収量の増加だけでなく、スケーラブルで持続可能な農業技術の導入が求められています。

精密農業技術の主な用途を挙げてみましょう。

  • 土壌の健全性:肥料、農薬、用水の量を最適化するためのマッピングとモニタリング
  • 家畜の管理:家畜の行動と健康の管理、生産性向上のための自動給餌/搾乳システム
  • 農作物のモニタリング:収穫や除草におけるコンピュータービジョンの活用、農作物が収穫に適した状態にあることの確認、雑草のみを対象とする農薬散布、ドローンや人工衛星による大気データの収集
  • 農機具のメンテナンス:車両や農機具の状態をモニタリングし、問題や交換が必要な部品を特定して、故障を未然に防いで大きな出費を回避

テクノロジーが規模を拡大し、精密性と適応性における進化を継続するにつれ、農家もその恩恵を受けます。例えば、農地や家畜から得られる収量が増え、手作業や人手に頼る場面が少なくなり、肥料や農薬の量が減ることで環境にポジティブな効果を与えます。

未来のアグテック

現代の農業には収量の増加、環境負荷の軽減、人手不足の克服といった使命が課せられています。高まる食糧需要に応えるにはスケーラビリティが必須であり、そのためには農作業の自動化が欠かせません。テクノロジーソリューションの進化はそうした点において農家の後ろ盾となります。

もちろん、新技術の導入にはそれなりの課題が伴います。これまで、テクノロジーと農家の親和性は決して良くありませんでした。精密農業を本格的に普及させるには、テクノロジーを提供する企業側がソリューションを簡単かつコスト効率良く世界的にスケーリングさせる体制を整える必要があります。また、リアルタイムのプロセッシングと解析を可能にするためには接続ソリューションの進化も欠かせません。

極端に利益の薄い経営を強いられることの多い農家にとって、精密農業機能を備えた農機具を新しく購入するだけでなく、既存の農機具にその機能を後付けできるコスト効率的なソリューションを選べることは朗報と言えます。購入する化学薬品の量を減らして無駄を省き、人手を減らして農機具の稼働期間を増やすなど、アグテックはさまざまな面でコストの回避や削減に役立ちます。

農作業におけるテクノロジーや自動化の導入が進む中、企業は次世代のアグテックを担うエンジニアに向けてソリューションを入手しやすい環境を整えています。

世代から世代へとテクノロジーは急速に進化し続け、現在と将来のニーズに対応していきます。それに伴い、精密農業の普及も進んでいくはずです。

  • センサは農業の現場で最もよく使用されているハードウェアソリューションのひとつ

    センサは農業の現場で最もよく使用されているハードウェアソリューションのひとつであり、的確な判断に必要なデータの収集に欠かせません

本記事はDigiKeyが「Global Ag Tech Initiative」に寄稿した技術記事を翻訳したものとなります