クラリベイト・アナリティクス・ジャパンは5月22日、全世界1万2726の先端研究領域(リサーチフロント)において活躍・貢献している研究者を選出する「第5回ジャパンリサーチフロントアワード」として、11のフロントと、その中で顕著な功績が認められる日本の研究機関に所属する研究者11名の受賞を発表した。
リサーチフロントアワードは、まだ名前もついていないような今後の発展が期待される先端研究領域を特定し、その分野をリードする研究者を表彰する取り組み。クラリベイトが従来から分類している22の学術分野において、直近約5年(2018年1月~2023年10月)に学術文献引用データベース「Web of Science」に掲載された論文かつ、高い頻度で引用されている上位1%の論文(高被引用論文)のうち、後に発表された論文と一緒に引用(共引用)されている論文を分析する形で、先端研究領域および受賞者の選出を行っているという。
4年ごと開催(2020年はコロナ禍のため中止)しており、第1回目の開催となった2004年には2018年のノーベル生理学・医学賞受賞者である京都大学の本庶佑 特別教授(2016年のクラリベイト引用栄誉賞受賞者)など、その後も研究が世界的に評価され続けている研究者も多数いるという。
第5回目となる今回は、研究内容とその成果の潜在的な可能性を重視し、最近の被引用数の伸びが著しく上昇傾向にある論文および学術分野に着目してフロントを選出。その結果、1万2726あるフロントのうち、日本の研究機関の存在感が大きかったのは213で、それをさらに分析することで最終的に11のフロントを決定したとする。具体的な選出方法としては、対象期間によく引用された論文(コアペーパー)が5件以上のフロントを選出し、さらにその中から日本の研究機関発の論文が20%を超すフロントを選出。その後、第一著者、最終著者、連絡著者が日本の研究機関開発の論文が20%を超えるフロントへと絞り込み、少なくとも1本の第一著者/最終著者/連絡著者がホットペーパーであること、またはCitation Topicsのグローバルシェアが最近2年間で伸びていること(30人以上の著者の論文は対象外)を条件として最終受賞者の選出を行ったとしている(加えて、今回は対象者を2001年以降に学位を取得した若手・中堅研究者とした)。
クラリベイトでは、引用分析の要素となる被引用数はその研究の影響力を、共引用はその論文群が何らかの研究領域を形作っている(もしくは形成しつつある)ことを意味するものであるとしており、これらの観点から論文を分析することで、強い影響力をもち科学の発展に先導的役割を果たしている、もしくは果たしつつある先端研究領域と、そのコアとなる研究者の特定が可能になるとしている。
今回、受賞した11名の受賞者の氏名とその研究領域は以下の通り(所属機関と肩書は受賞時点のもの)。
シグナル依存運動の走化性方程式の数学解析
- 藤江健太郎氏(東北大学大学院 理学研究科 准教授)
多重共鳴型TADF材料による高効率・高色純度有機ELデバイスの開発
- 畠山琢次氏(京都大学大学院理学研究科 教授)
多重共鳴型TADF材料による高効率・高色純度有機ELデバイスの開発
- 安田琢磨氏(九州大学 高等研究院 教授)
下水疫学
- 原本英司氏(山梨大学国際流域環境研究センター 教授)
下水疫学
水素結合性多孔質フレームワーク
- 久木一朗氏(大阪大学大学院基礎工学研究科 教授)
非エルミート物理における対称性とトポロジー
- 川畑幸平氏(東京大学物性研究所 准教授)
ロボティクス向けArtifical Intelligence
- 陸慧敏(Lu Huimin)氏(九州工業大学 准教授)
胃がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の開発
- 設楽紘平氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科科長)
経済学:持続可能な経済発展
金融学:グリーンファイナンスと再生可能エネルギー
- タギザーデ・へサーリ・ファルハード氏(東海大学環境サステナビリティ研究所(TRIES) 准教授) (同氏は2フロントで受賞)
5G対応IoTテクノロジーとセキュリティ、プライバシー、機能性の向上
最先端のネットワーク技術と人工知能技術によるインテリジェントトランスポートシステムおよび都市開発に関する研究
- 余恪平(Yu Keping)氏(法政大学大学院理工学研究科 准教授、総合理工学インスティテュート副委員長) (同氏は2フロントで受賞)
なお、クラリベイトによると、高被引用論文の中でもリサーチフロントを形成している論文は、Web of Scienceの0.45%にすぎない中、日本の研究が貢献しているものが、これまでも強みを発揮してきた材料や物理といった分野に加えて、新たにビジネスやコンピュータサイエンスといった分野に関するフロントが出てきたことから、これまでよりも先端研究でけん引している分野が拡大したとの認識を示しているほか、今回の11人の受賞者以外にも、1人で頑張って先端領域をけん引しようとしている論文や研究者も多くいることも確認したとしており、今後もデータの分析などを進めていき、さらなる日本の研究が貢献できる分野などの探索などを進めていきたいとしている。