旭化成は、同社が手掛けるリチウムイオン電池(LIB)用湿式セパレータ「ハイポア」について、カナダ・オンタリオ州に製膜・塗工一貫工場を新設すること、ならびにその事業会社として2024年10月をめどに合弁会社「旭化成バッテリーセパレータ」を設立する予定で、すでに日本政策投資銀行(DBJ)からの優先株を発行する形で280億円の資金提供を受けるほか、本田技研工業(Honda)とも出資に向けた基本同意書を取り交わしたことを発表した。

  • 旭化成 代表取締役社長兼社長執行役員の工藤幸四郎氏

    旭化成 代表取締役社長兼社長執行役員の工藤幸四郎氏

  • 旭化成のカナダにおけるセパレータ工場完成予想図

    旭化成がカナダで建設を予定しているセパレータ工場の完成予想図 (出所:旭化成)

セパレータとは電池内部における正極と負極の接触によるショートを防ぐ部材。同社は、セパレータとして、今回カナダでの生産を決めたリチウムイオン電池用のハイポアのほか乾式セパレータ「セルガード」や、鉛蓄電池用セパレータ「ダラミック」など長い間進めてきた技術開発をベースとしたセパレータ事業を展開している。

  • 旭化成の湿式セパレータ「ハイポア」

    旭化成の湿式セパレータ「ハイポア」

しかし、COVID-19やロシア・ウクライナ情勢、半導体不足などの環境変化の影響なども加わり、民生用途の需要低迷と車載用途の拡大の遅れが生じ、ハイポアは販売量を拡大してはいるものの、足元では苦戦している状況だという。

そうした中で、北米の電動車(xEV)市場に注目。各LIBメーカーが生産能力を増強している傾向を踏まえ、短期的には成長スピードの鈍化もありえるものの、中長期的な成長が見込めると判断。カナダに工場の建設を決定したほか、高性能なバッテリーを安定的に供給するサプライチェーンの確立が重要との共通認識をもっていたHondaと基本合意書を締結。DBJからの資金提供に加え、Hondaからの出資やカナダ連邦政府ならびに建設地であるオンタリオ州政府からの補助金・税恩典なども踏まえ、カナダ工場に対して概算投資額1800億円を投じ、2027年の商業運転開始を目指して取り組みを進めていくとしている。

すでに同社は北米市場の主要顧客のうち40%がハイポアの評価を完了させ、長期供給に向けた協議を進めている段階とするほか、残る60%についても評価が順調に進捗していることもあり、第2期ならびに第3期についての投資を検討していくとする。

この第3期までの投資を通じて、北米での市場シェア30%以上の獲得を目指すとしているほか、稼働開始から5年目となる2031年にはハイポア事業だけで売上高1600億円、営業利益率20%以上を目指すともしている。

Hondaとの協業について旭化成では、旭化成が車載バッテリーに求められる高性能を実現するセパレータを供給しつつ、投資リスクをコントロールしながらHondaの電気自動車(EV)向け需要を確保することで安定稼働を実現することを目的としており、Hondaとしても、旭化成のセパレータを車載バッテリーに活用することで高性能なEVを実現するとしているほか、北米生産による事業競争力の高いセパレータの安定調達スキームを実現していくとする。

  • 旭化成とHonda協業のねらい

    旭化成とHonda協業のねらい

なお、旭化成は、将来的にセパレータ事業を中核とする「蓄エネルギー」事業において、これまで培ってきた電池関連技術を用いて、さまざまなソリューション事業を展開したいとしている。