中国のハイテク市場動向調査会社である CINNO Researchによると、2023年の中国の新エネルギー乗用車(NEV)の卸売り販売台数は前年比36%増の約886万台となり、普及率も同7ポイント増の34.7%となったという。また、2024年の販売台数は同24%増の約1100万台と予想され、普及率は40%に到達するともしている。
ちなみに中国政府の定義しているNEVは、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を指し、補助金を支給する形で製造や販売を振興しているがハイブリッド車(HV)は含まれていない。
2023年のメーカーランキングを見ると、BYD、Tesla China、吉利汽車(Geely Automobile)がトップ3を構成し、この3社だけで中国のNEV総販売台数の50%を占めたという。以降、GAC AION、そして上海汽車(SAIC)と米General Motors、五菱集団(現:広西汽車)の3社による合弁企業であるSAIC-GM-Wuling(上汽GM五菱)が続く。
その販売台数は、BYDが同62%増の301万3000台で、中国のNEV販売台数全体の34%を占めた。CINNO Researchによると、BYDのNEV販売台数は、豊富な製品マトリックス、ブランド力の向上、規模の経済性により、2024年には330万台を超える見込みだという。Tesla Chinaは2023 年、中国市場で約94万8000台を販売し、全体の約11%を獲得した。現在の同社上海工場の年間生産能力は約100万台で、同工場では2024年はモデルYの生産が中心となる模様だという。また、同社の新車販売台数は2024年に95万台とほぼ横ばいで推移すると予想されるという。
吉利汽車の2023年の販売台数は、同48%増の約48万7000台となった。同社のGalaxy EシリーズE8は2023年第4四半期に発売されたが、シリーズE7とE6は2024年に発売される予定である。CINNO Researchでは、2024年の同社のNEV販売台数は約72万台にまで増加すると予想している。
GAC Aianの2023年のNEV販売台数は同77%増の48万台で、NEV販売台数全体に占める割合は約5%。CINNO Researchでは、2024年にはその販売台数を同4%ほど伸ばすと予測している。また5位のSAIC-GM-Wulingの2023年のNEV販売台数は同28%減の約44万3,000台となり、CINNOでは2024年も同17%減と予測している。
ちなみに6位から10位は、6位が長安汽車、7位が理想汽車、8位が上汽集団、9位が長城汽車、10位がNIOとなっており、これらトップ10社の売上高合計は、全体の78%を占める規模で、CINNOでは2024年には奇瑞汽車、賽力斯(SERES)、フォルクスワーゲンあたりがトップ10に食い込んでくることが予想されるとしている。
中国自動車企業は米国による対中規制回避に向けて半導体の内製化を促進
中国の自動車メーカーの多くが、ADAS/自動運転向けの車載SoCやEVに使うパワー半導体などをこれまで主に海外の半導体メーカーから調達してきた。例えば車載SoCは、NVIDIA、Mobileye、Qualcomm、NXP Semiconductorsなど、パワー半導体はInfineon Technologies、STMicroelectronicsなどから購入してきたが、米国政府を中心とした対中輸出規制などの地政学的な事情で入手が困難になりかねないため、中国政府からの要請もあり、中国の自動車メーカーの半導体内製化が顕著になってきている。
中国政府工業情報省は、国内自動車メーカーに対し2023年までは2025年までに使用する半導体の約2割を国産品とするように指導してきたが、2024年に入り、欧米製の半導体に替え中国製半導体の採用を加速させることを目的に、自動車メーカー各社に国産部品の購入を拡大するよう要請しているという。
例えばBYDは傘下に半導体メーカーとしてBYD半導体を有し、EVのインバーターで多く使われるSi IGBTやSiCパワー半導体、パワー半導体を駆動するゲートドライバIC、マイコンなどを内製化している。吉利汽車は傘下の湖北芯擎科技でコックピット用ADAS用SoCを手掛けており、5nmプロセスを用いた次世代車載SoCの開発を行っている模様である。湖北芯擎科技は、吉利傘下の億咖通科技とArmの中国合弁である安謀科技(Arm China)の共同出資で設立された車載半導体メーカーである。理想汽車、広州汽車、長城汽車なども傘下に半導体メーカーを持ち、自社グループ内でのパワー半導体の開発・製造を行っているほか、NIOも車載SoCの内製化を進めており、2025年に発売予定の旗艦セダン「ET9」に自社開発の5nmプロセス自動運転用SoCを採用すると発表している。
自動車メーカーのみならず、例えばHuaweiは、先端技術を活用する形でADAS/自動運転用SoCはじめ各種ロジックや車載パワー半導体を内製している。米国政府のエンティティリストに記載され、米国製半導体の入手が困難なHuaweiだが、自社の関与を隠して別会社名義でパワー半導体やマイコン製造の芯恩(青島)集成電路とDRAM製造の福建省金華(JHICC))を買収したほか、別名義で深センにDRAMメーカー昇維旭技術(Swaysure)、イメージセンサやRFチップ製造の鵬芯微(PXW)、ロジックデバイス製造の鵬新旭技術(PST)の3つの半導体工場を建設していることが、米国などで報道されており、米商務省もこれらの企業もエンティティリストに載せる検討をしていると米国メディアが3月20日付で伝えている。
なお、JHICCはすでに2018年にMicron TechnologyのDRAM製造技術を盗んだとしてエンティティリストに載せられ、DRAM製造ができずにいたが、ひそかにHuawei傘下に入り、DRAM製造に再挑戦する準備をしているといわれている。Huaweiは半導体設計子会社であるHiSiliconも有しているが、これらの企業を本当に傘下に有していることとなれば、世界有数の半導体製造規模を持つグループとなる可能性もある。