数学を活用してさまざまな物事を理解する分野「数理」を解説したポスター「世界とつながる“数理”」が完成し、文部科学省が公開した。学習資料として毎年作成する「一家に1枚」シリーズの第20弾。15~21日の科学技術週間に合わせたもので、日常生活の身近な事例から、社会の安全性や利便性の向上、先端科学に至るまで、数理が多彩に役立っていることの認識を深める一枚となっている。

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    「一家に1枚」シリーズ「世界とつながる“数理”」(文部科学省提供)

数理は数学とよく似た言葉だが、違うという。ポスターは「数学を道具として使うこと」という基本を、まず中央で説明。人形を倒れないように置くことや、多数決で意見をまとめることなど、数理が暮らしの中で特に意識せずに活用されていることを例示した。

さらに、ふたが落ちないマンホールの形状や、鉄道の経路検索、薬が効き続けるための服用の量や回数、台風の進路予測といった社会への活用、宇宙の年齢の解明、生物由来の放射性炭素による年代測定などの学術への応用、量子コンピューターやAI(人工知能)に代表される未来への展開を、幅広く紹介している。

数理の歴史を振り返り、科学と数学の両輪の発展により科学技術が展開してきたことを解説。アートやデザインへの活用や日本人の活躍に触れた上、根気の求められるミニクイズもあり、見る人を飽きさせない工夫を凝らした。

昨年12月に公表された2022年「OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査(PISA)」で、日本の15歳の子どもの学力は、「数学的リテラシー」で加盟国中1位となるなど、全3分野で世界トップレベル。一方、文科省国立教育政策研究所の資料によると、この調査を通じ「実生活の課題を、数学を使って解決する自信が低い。数学を実生活における事象と関連付けて学んだ経験が少ない」「授業で、数学的思考力の育成のため、日常生活とからめた指導を行う傾向が低い」などの問題点も浮上している。

実際、中高生の日々の学習や受験勉強では、問題の解法に圧倒的に重点が置かれ、生活とのつながりを意識する機会に乏しいようだ。こうした状況に対し、ポスターは数学を学ぶ面白さや意義の理解を、効果的に深める構成となった。

「一家に1枚」は2005年の「元素周期表」を皮切りに文科省が毎年、作成しているもの。シリーズ化して「ヒトゲノムマップ」「光マップ」「タンパク質」「日本列島7億年」など20枚が公開中だ。「大人から子どもまで部分的にでも興味を持たせるもの」「見た目がきれいで、部屋に張っておきたくなるもの」「基礎的、普遍的な科学知識を中心とするもの」「身近な物や事象との関連付けをして、親しみを持てるもの」を基本コンセプトとしている。

新元素「ニホニウム」の発見やゲノム研究の進展など、公開後の状況変化に応じ改訂しているのも特徴だ。「元素周期表」は実に13版を数え、また「宇宙図」は新たに「宇宙図2024」を公開した。昨年に公開した「ウイルス」はその後に英語版も作成するなど、外国語に対応したものもある。

今年も新作の「数理」を全国の学校に配布した。インターネットの文科省「科学技術週間」のページからPDFファイルをダウンロードして利用できるほか、同週間に合わせ、協力する全国約330の科学館や博物館、研究機関などが配布する(なくなり次第終了)。特設サイトも公開した。

科学技術週間は1960年に制定。今年も各地の施設が講演会や実験教室、企画展、見学会などを実施する。盛山正仁文科相は9日の会見で同週間とポスターを紹介し「多くの国民の皆様に、科学技術に触れ興味を持っていただければ」と述べた。

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