新学習指導要領にも追加された「がん教育」の重要性
日本の“国民病”とも言われるがんは、長らく日本人の死因で最も多くの割合を占め、多くの人々を悩ませ続けている。そうした状況を改善するため、がんの予防・治療技術の開発が進められているものの、がんの発生を無くす、あるいは絶対に治せる、といった状況には至っておらず、今後も国民病の1つであり続けることが予想される。
しかし、特に若年層にとってがんを自分事として捉える機会は少なく、どこか縁遠いものと考えていることも多いだろう。そういった現状を変えていくべく、新学習指導要領では「がん教育」を小学校~高校年代での授業で積極的に推進することが求められるようになった。
産学連携での出張授業に取り組むオリンパス
新たに始まったがん教育に対しては、その教え方や授業の在り方が模索されている真っ最中。その中で企業として1つのアプローチを提示しているのが、医療用の内視鏡メーカーとして世界トップのシェアを誇るオリンパスである。同社はがん治療に用いられる内視鏡のプロフェッショナルとして、内視鏡関連機材を用いた出張授業を実施しているとのこと。2016年に開始されたこの取り組みでは、前述のがん教育に加え、近年重視されている理系教育、キャリア教育などにも活用可能なプログラムを提供しているという。
オリンパスが注力する内視鏡授業は、未来を担う世代に何を与えているのか。今回は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも指定されている東京都立富士高等学校で行われたオリンパスの出張授業の様子を通して、企業との連携が教育現場にもたらす価値について迫った。
本物の機器に触れる“体験型”の内視鏡授業
今回の富士高校での内視鏡授業は、2年生の生物の授業として行われた。なお、内視鏡や関連器具に触れる時間を確保するため、内視鏡授業の当日にはがんに関する詳しい説明は行わないとのこと。代わりにがんをテーマにしたワークシート形式の事前授業を学校の方で行い、調べ学習や発表を通してがんへの理解を深めてから、連携授業を迎えたという。
まずはオリンパスと内視鏡についておさらい
授業は内視鏡に関する簡単な講義からスタート。内視鏡はどんなもので、どんな方法でがん治療に役立てられるのかを説明するとともに、内視鏡開発の歴史が紹介された。胃カメラが考案された経緯から、その実現や進歩に大きく寄与したファイバースコープ・ビデオスコープについての簡単な技術解説など、通常の授業ではあまり触れることのない内容について、生徒たちも真剣な面持ちで耳を傾けていた。
授業後半は機器に直接触れる時間に
そして授業の後半は、実物に触れる操作体験。2班に分かれ、内視鏡や内視鏡治療に用いられる処置具を使ってみる時間だ。
内視鏡操作では、実際の医療現場でも用いられるような“本物”の内視鏡を使って、模型の内部を観察する。画面を見ながら左手のリモコンを操作し、先端のカメラを観察したい方向に向ける姿は、医療現場さながら。しかし当然ながら、慣れない操作に苦戦する姿も多く見られた。
一方の処置具の体験では、内視鏡の中を通して体内のポリープなどを摘出するのに用いるスネアなどを使って、実際に小さなものをつかめるのかに挑戦。内視鏡治療で行われている処置を簡易的に体験しながら、その治療の繊細さを感じているようだ。
体験を終えた生徒の中には、教室内に併せて展示されている内視鏡に興味を示す人も多く、これまで見たこともなかったであろう精密医療機器に触れながら、その仕組みや使い方についてオリンパスの担当者へ積極的に質問しているのが印象的だった。
体験後は、内視鏡を使った最新医療技術について簡単に解説し、オリンパスの若手社員からのメッセージ映像を放映。生徒たちとも近い世代の社員たちが同社で何をしているのか、その具体的なイメージにつながることを願っているという。