大阪公立大学(大阪公大)は3月21日、サッカーのプレースキルが異なる21人の男子大学生(高スキル群7人、低スキル群7人、未経験群7人)を対象に、サッカーにおけるパス選択場面を画像で提示し、反応にかかった時間と、パスを出す/出さないと判断した場面それぞれの脳波を測定した結果、高スキル群の選手は、他の群に比べて速く安定した反応を示しただけでなく、パス選択を判断する時に、反応抑制(パスを出さない)処理に関わる神経活動が強く働いていたことが示され、サッカー選手が速く安定した反応をするためには、パスを出さないなど、しようと思ったことをやめることを判断する脳の働きも重要であることが明らかになったと発表した。

同成果は、大阪公大 都市健康スポーツ・研究センターの松竹貴大助教らの研究チームによるもの。詳細は、神経科学に関する全般を扱う学術誌「Brain Sciences」に掲載された。

サッカーでゴールを決めるためには、相手のキーパーやディフェンダーなどに阻まれずにゴールの枠内にシュートを蹴ることが求められるが、そのためにはゴールに結びつくためのパスが仲間から出される必要がある。サッカーでは得点ランキングに加え、アシストのランキングも指標とされていることからその重要性の高さは知られている。また、サイドチェンジのように局面を変えるためのパスやキラーパスなど、試合中に相手に奪われずに正確にパスを出すことが求められるシーンは多々見受けられる。

そうした速く正確にパスを出すかどうかを判断するためには、知覚・認知および反応実行がパフォーマンスを発揮する上で重要とされており、これまでのサッカーの知覚・認知に関する多くの研究では、パスを出すと判断する「反応実行」に関する機能に焦点があてられていたという。

しかし、サッカーは1試合あたり、ピッチ(フィールド)上には22人のプレイヤーがおり、各自が個々別々に動くため流動的で状況の変化がめまぐるしいスポーツであり、パスを出そうと判断して、それを実行したものの、相手選手にカットされるといった、そのタイミングでパスを出すのをやめた方が良かったという場面も往々にしてある。こうした瞬時の判断が要求される場面で、しようと思っていた動作をキャンセルして思いとどまることは容易ではなく、そうした出そうと思っていたパスを出さないと判断を改めて行う行動は「反応抑制」と呼ばれ、その関連機能については十分に解明されていなかったとする。

そこで研究チームは今回、サッカーのパス選択場面を想定した「Go/No-go課題」中の脳波事象関連電位(ある事象を脳が処理する過程に関連して出現する電位)を測定し、大学生サッカー選手の反応実行(反応の速さ、正確性)と反応抑制との関係を明らかにすることを目指した実験を実施。具体的には、全国大会出場レベルの高スキル群7人、サッカー経験者の低スキル群7人、サッカー未経験者7人の計21人を対象に、サッカーのパス選択場面を想定したGo/No-go課題を実施。その課題中の反応時間と、スイッチを押す時と押さない時における事象関連電位の記録を行い、反応を抑制する神経活動を示す指標である「N2成分」(180~400ミリ秒の最大陰性電位)と、刺激を評価した処理を反映する「P3成分」(300~500ミリ秒の最大陽性電位)の分析が行われたという。

  • 今回の研究の測定時イメージ

    今回の研究の測定時イメージと事象関連電位の概要 (出所:大阪公大プレスリリースPDF)

その結果、高スキル群は反応処理が速いだけでなく、各場面に対する反応のばらつきが小さいことも判明したほか、事象関連電位の分析から、高スキル群は反応を抑制する神経活動が大きいことが示され、反応の速さ・安定性とNo-go-N2振幅の大きさ(反応抑制)が関連することが確認されたという。

  • 反応抑制の強さと反応の早さおよび安定性の関係

    反応抑制の強さと反応の早さおよび安定性の関係 (出所:大阪公大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは今回の成果について、サッカー選手の知覚・認知・行動の理解を進めるのに役立つことが考えられるとしており、今後は反応抑制に対するトレーニングを行うことで、選手のパフォーマンスが向上するのかを検討していくと同時に、効果的なトレーニング方法の構築を目指すとしている。