筑波大学は6月18日、Oxford Metrix製3次元自動動作分析装置「VICON」を用いて、大学サッカー部のゴールキーパー11名の協力を得て、ボールの高さ・距離の異なるボールに対するサッカーのゴールキーパーのダイビング動作を撮影・分析し、通常のスポーツで行われる鉛直方向や前方向への両脚ジャンプとはまったく異なるメカニズムで横方向へダイビングを行っていることを明らかにしたと発表した。

成果は、筑波大学 体育系 サッカーコーチング研究室所属の松倉啓太特任教授、同・浅井武教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月8日付けで日本体育学会誌「体育学研究」第56号(2013年1号)に掲載された。

これまで、サッカー技術に関する研究はキックやドリブル、トラップなどどちらかというとフィールドプレーヤー用のものが多く、ゴールキーパーの横方向へのダイビング動作についてはほとんどなされていない。

一般的な鉛直方向への両脚ジャンプでは、ほぼ両脚が同様なパワー源であり、そのパワーによってパフォーマンスが大きく影響を受けることは知られている。一方、ゴールキーパーのダイビング技術では、ボールから遠い脚はパワー源だが、近い脚は方向をコントロールする役割を持っており、その役割分担が重要な技術ポイントの1つであることが今回の研究によって明らかとなった。

またゴール上端にダイブする場合は、ダイブ前半(ボールと反対側の脚が離地するまでの局面)は、重心より後ろの脚がパワー源で、前脚はコントロール役だが、ダイブ後半(ボール側の脚のみ設置している局面)は、前脚もパワー源として動員されていることが判明。この動作をクルマの駆動方式に例えると、前半は前輪駆動で、後半は四輪駆動というイメージだという。

次にゴール下端にダイブする場合は、下方向へのジャンプは当然ながらできないため、後ろ脚がパワー源で前脚が方向をコントロールする役割のまま、体を回転させながら(体を横に倒し、上肢をボールへ近づけながら)ダイビングを行うことがわかった。同様にクルマの駆動方式に例えると、これは前輪駆動であるとしている。

横方向へのダイビング(ゴールキーパーから見て左側)において、ゴール上端、中間、下端の3方向におけるゴールキーパーの動作例と、両脚の横方向と鉛直方向の床半力の合成ベクトルを時間ごとの表したのが画像1だ。時間は、踏切開始時を0%として、離地までの時間を正規化して、10%ごとに表示されている。

ボールの反対側(CS)の脚は高いボールへ向かうほどベクトルが大きいが、方向はほぼ同様のゴールキーパーから見て斜め左方向に発揮されていた。一方、ボールに近い側(BS)の脚の横・鉛直ベクトルは、ボールの高さによって大きさだけでなく、角度も大きく異なっていた。これらの特徴は、遠距離のダイビングでも見られたという。

画像1。ゴール上端、中間、下端の3方向へのダイビングににおけるゴールキーパーの時間ごとの動作例と、両脚の横方向と鉛直方向の床半力の合成ベクトル

そして、代表的な被験者が近距離にダイビングした際の、ボールに近い側の脚における横方向における体重当たりの床半力の推移が画像2で、鉛直方向における体重当たりの床半力の推移が画像3だ。高いボールにおける横方向の床半力は、接地直後から進行方向に対して反対側のブレーキとなる力が発揮されていることが見て取れる。遠距離のダイビングでも同様の特徴が見られたという。

代表的な被験者が近距離にダイビングした際の、ボールに近い側の脚における、体重当たりの横方向(画像2:左)と鉛直方向(画像3:右)の床半力の推移

以上をまとめると、ゴールキーパーはボールが飛んでくるコースによって両脚を前輪駆動と四輪駆動のように自在に使い分けて、ダイビングセーブをしているというわけだ。

なお研究チームは、ゴールキーパーのダイビング動作においては、それぞれの脚が複雑な力の発揮様相(方向、大きさ、タイミング)であることを示すと共に、それらがダイビング動作のトレーニング並びに技術の研究、開発に寄与すると考えられるとしている。