日本マイクロソフトは3月18日、同社の生成AI(人工知能)サービスを導入する企業に関する説明会を開催した。日本ビジネスシステムズ(JBS)、ベネッセホールディングス(ベネッセ)、ソフトバンクの3社が登壇し、各社の最新の活用事例が紹介された。
マイクロソフトによると、同社の生成AIサービスの活用事例は大きく2つに分かれる。1つは生成AIをサービスとして利用する事例。もう1つは企業が独自の生成AIを構築する事例だ。
同説明会では、JBSが生成AIをサービスとして使う事例を、ベネッセとソフトバンクが生成AIを独自に構築する事例をそれぞれ紹介した。
JBS、Copilot活用で契約書チェック時間を66%削減
JBSはマイクロソフトが提供する「Copilot(コパイロット) for Microsoft 365」を2024年3月より全社で導入している。主に総務部や人事部、法務部、財務部といったコーポレートの組織で生成AIの活用を進めている。同説明会では、Copilotによって議事録の作成業務と契約書のチェック業務を効率化している事例を紹介した。
Teams(チームズ)による議事録の作成では、会議のメモといったCopilotのデフォルト機能の活用に加えて、回答の精度や分かりやすさを向上させるために独自のプロンプト(AIへの指示文)を構築。例えば、以下のようにプロンプトを入力しているという。
以下の条件の議事録を生成してください。
会議種別:検討会議
#共通
1.会議出席者
2.日時
3.場所
4.10文字以内でアジェンダ
5.目的・ゴール
6.決定事項
7.To Doリスト
8.次回会議日
#固有
1.検討目一覧
2.一覧ごとの意見・評価
3.次のステップ
#条件
共通・固有それぞれの項目ごとに記載
箇条書きで800文字以内にまとめるインデントは2段階まで
未検討項目は「未検討」と記載して
共通、固有ともにすべての項目は記載深呼吸をして落ち着いて生成してください
#変数は以下の通りとなっております。
(以下省略)
JBS 取締役専務執行役員 ビジネスグループ統括 デジタルセールス本部担当の後藤行正氏は、「プロンプトに『深呼吸をして落ち着いて生成してください』といった文言を入れることで、生成AIの回答の精度が良くなる」とプロンプトのテクニックを紹介した。
また同社は、法務部の契約書チェック業務にもCopilotを活用している。今まで1件あたり平均15分かかっていた業務時間を平均5分にまで削減。約66%の業務時間削減を実現している。
そのほか、文書作成や要約、校閲、アイデア出しなどさまざまな業務にCopilotを利用しており、同社によると1ユーザーあたりの価値生産時間は、導入前後で約14時間増えたという。
後藤氏は「従業員の生産性を最大化し、コア業務への集中を支援する」と、全社導入に至った背景を説明したうえで、「AI活用が社員一人ひとりにとって当たり前になるようにしていきたい」と展望を述べた。
ベネッセ、独自のCopilotをローコードで開発
ベネッセは、独自の生成AIを創って活用している先進的な企業の一社だ。
同社は社内情報検索の利便性を向上させるため、対話型のAI「社内相談AI」を開発し、2月13日より全社員向けに提供している。「オフィス内での撮影の手続きを教えて」、「新企画に必要な相談先を洗い出して」といった社員からの質問に社内情報を熟知したAIが答えてくれる。
この独自の生成AIはマイクロソフトが提供する「Copilot Studio」で開発された。Copilot Studioは、企業のデータソースを利用して独自のCopilotを手軽に、そして素早く作成できるサービス。専門性がない社員でもCopilotを作れるサービスとして注目を集めている。1100を超える組み込み済みプラグインやコネクタを活用して、ユーザー自身が持っているデータやアプリと接続できる。
ベネッセは、社内イントラ上の750ページ分の情報を投入し、Word(ワード)やPowerPoint(パワーポイント)、PDF、テキストといったさまざまな独自のデータソースをCopilot Studioに読み込ませた。
ベネッセ 専務執行役員 CDXO兼Digital Innovation Partners本部長の橋本英知氏は「開発したCopilotを自分自身でテストでき、ボタン一つで公開できる点も良い。ログの保存やアクセス制限も追加負担がなく、利用料が安価な点も魅力的だ」と太鼓判を押す。
同社によると社内相談AIは公開後2週間で900回以上利用されたという。一方で「表や図など解釈が難しい形式もある」とし、「さらなる検証と整備が必要。データセットの精緻化を進めていく」と、橋本氏は今後の方針を説明した。3月中旬以降、総務とITに関する社内イントラ上のデータ1000ページ分をさらに追加する計画だ。
加えて、過去の会話ログや既存の公開サイトなどの情報も組み合わせ、2024年度中に簡易審査の領域まで拡大させる。2025年度中には、AIによる社内手続きの代行まで実現していきたいとのことだ。「解像度の高い詳細なデータをどんどん追加し、Copilotを進化させていく。確認業務を効率化することで、新しいビジネスを創出する時間に充てることができる」(橋本氏)
ソフトバンク、生成AIでコールセンター業務を自動化
ソフトバンクはマイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を利用して独自の生成AIを構築している。
同サービスは、米OpenAIのあらゆる生成AIモデルをクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上で提供するサービス。「ChatGPT」や「GPT-4」といった大規模言語モデル(LLM)だけでなく、画像生成AI「DALL-E」や音声認識AI「Whisper」などさまざまなAIモデルを利用できる。自然言語による質疑応答や翻訳、コードの生成、画像の生成など、さまざまなタスクを実行することが可能だ。
また、Copilot Studioと同様に自社独自のデータを組み込んだり、自社サービスや他のPaaS製品とAPI連携したりすることも可能で、独自の生成AIを構築することができる。
ソフトバンクは、2023年2月に生成AIの業務利用を開始するなど、事業や社内業務において先端テクノロジーの導入を積極的に進めている。その中でも特に注力するのがコールセンター業務の自動化だ。
同社は3月18日、コールセンター業務の自動化をさらに加速することを目指し、マイクロソフトと生成AIの共同開発を開始すると発表。2024年7月以降、ソフトバンクの自社のコールセンターに順次導入し、既存業務の自動化を拡大する。顧客の待ち時間の短縮と対応の均質化を図り、顧客満足度の向上につなげる。
ソフトバンクのコールセンターでは、各種サービスのさまざまな問い合わせに対応しており、1万以上の業務が存在しているという。すでにAIの活用を試験的に開始していたが、定型業務が比較的多いコールセンター業務にはさらなる自動化の余地があると判断した。
生成AIを活用し、問い合わせ内容に対する案内や契約内容の照会、契約変更手続きなどの業務を自動化していく。具体的にはLLMが顧客からの問い合わせ内容を判断して案内を行ったり、データソースから情報を収集したりして、最適な回答を行う。
「決められた順序と固定化されたスクリプトで対応する従来のフロー追従型ではなく、顧客との会話内容に応じて、LLMが必要な機能やデータソースを参照する自立思考型のLLMの開発を目指す」と、ソフトバンク IT統括 専務執行役員兼CIOの牧園啓市氏は述べた。
ソフトバンクは今後、同LLMの効果検証の結果を踏まえ、ソリューション化および法人顧客向けの提供も検討していく。「このLLMが当社で使えるとなった場合、通信業界のすべての会社も使えるということだ。個社提供やSaaS提供など顧客のニーズに合った提供パターンを準備していく」と、牧園氏は今後の方針を述べた。