アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンは2月29日、金融戦略記者説明会を開催した。同社の金融ビジネス戦略「Vision2025」の最新情報については、執行役員 金融事業統括本部 統括本部長 鶴田規久氏が説明を行った。
金融ビジネス戦略「Vision2025」とは
金融ビジネス戦略「Vision2025」は現在、第3ステージを迎えており、「インフラプロバイダーから金融ビジネス変革の戦略パートナーへ」というミッションを実現するため、以下の4つを戦略に据えている。
- 既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦
- 新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築
- 予測できない未来に耐え得る回復力の獲得
- 変革を実現する組織と人材の育成
このアプローチは生成AIに対しても適用されており、同社は顧客課題に対応した生成AI活用の支援を行っている。同社の生成AIのサービスは3つの層から構成されるが、真ん中の層の基盤モデルを活用してアプリケーション構築するための基盤として提供されている「Amazon Bedrock」が同社の生成AIサービス群の核となる。
金融ビジネスの2024年度の注力領域
鶴田氏は、金融ビジネスにおいて、2024年度に注力する領域として、生成AIとレジリエンシー向上を挙げ、それぞれ詳細を説明した。
生成AI
生成AIに関しては、企業利用にフォーカスし、「ユースケース検討」「技術検証」「立ち上げ」スケール」の4つのフェーズに合わせた検討と活用を支援する。「支援プログラムを顧客のジャーニーに合わせて提供する。われわれは計画から運用まで、数多くのサービスを提供している」と、鶴田氏は語っていた。
レジリエンシー向上
AWSは、システムの「準備・計画」「設計・開発」「移行」「運用」の各フェーズに対応した対応したレジリエンシー支援のサービスやプログラムを提供している。
鶴田氏は、クリティカルなワークロードのレジリエンシー向上を支援するためのサービスとして、「AWS Incident Detection and Response」と「AWS Countdown / Countdown Premium」を紹介した。
前者は、インシデント解決を加速するプロアクティブな監視と5分以内の初期応答を行うもの。後者は、移行やピーク対応など、重要なシステムイベントをサポートする。
また、鶴田氏は「サイバーセキュリティの問い合わせも増えている」と述べ、そうしたニーズに対し「莫大な投資をしている」として、個社でセキュリティ対策を講じるよりもコストメリットが得られると考えている」と語った。
2019年よりAWSを利用開始した野村HD
説明会では、AWSを利用している野村ホールディングス(以下、野村HD)の執行役員 デジタル・カンパニー長兼営業部門マーケティング担当 池田肇氏が、野村グループにおけるAI関連の取り組みを紹介した。
野村HDは2017年よりクラウド移行を推進しており、2019年にAWSの利用を開始したという。池田氏は、同社のAWS活用について、「パブリッククラウド利用の第一歩となった。柔軟なキャパシティなど、クラウドのメリットを享受している。現在はコンテナ、マイクロサービスを活用して、モダンアーキテクチャを活用している」と説明した。
また、資産管理アプリ「OneStock」と資産情報メッセージアプリのデータプラットフォームにAWSを活用している。
池田氏は、「アプリから取得したデータは仮名加工しているため、安心してデータにアクセスできる。顧客からのフィードバックをアプリの改善に生かしているが、データドリブンな開発ができているのはAWSのおかげ」と語っていた。
生成AIによる広告審査に「Amazon Bedrock」を活用
野村HDはすでにさまざまな業務にAIを活用している。例えば、運用パフォーマンスの高度化に向けては、Trading AIを利用している。また、リレーションを促進するコミュニケーションAIとしては、Communication AIを活用している。
生成AIに関しては、グループワイドな展開見据えた活用を目指している。業務プロセスの変革するため、「目論見書等ドキュメントの作成」「デジタルマーケティング業務」「音声データ保存と文字起こしの活用」「広告審査等一部業務の自動化」などに生成AIが活用されている。
「今後は生成AIが重要となる。金融は書類とデータが多く、生産性向上のポテンシャルが高いので、さまざまな取り組みを進めていきたい。グループ全体の課題解決にAIを活用していく」と、池田氏。
上記の取り組みのうち、「広告審査等一部業務の自動化」において、AWSの「Amazon Bedrock」が利用されており、LLMはアンソロピックのClaudeが選ばれた。金融では宣伝物に広告審査を行うことが義務付けられており、ここにAIを活用して効率化を図る。
これまで、広告審査委において「審査の依頼が多く対応に時間がかかる」「審査を担う人材不足」「再審査の頻度が多い」といった課題を抱えていたという。
池田氏は「Amazon Bedrock」を選んだ理由について、「導入済のAWSのサービスと同じセキュリティ機構が使え、また、扱えるトークンが多いClaudeがマッチしているから」と説明した。
AI広告審査のシステムはベテラン社員も開発に携わっており、池田氏は「彼らの業務負担が軽減するレベルになるのでは」と期待を寄せていた。
なお、池田氏はすべての広告審査をAIで行うかについては、「高い精度が求められるときはすべて自動化することは難しい。人手のチェックは不可欠。課題もあり、AIで完全に行うには時間がかかる」との見方を示した。
ただ、「金融には審査業務がたくさんあるので、広告審査で見えてくれば、可能性が広がる」と、池田氏はAI広告審査が持つポテンシャルをアピールしていた。