円安の影響による原材料価格の高騰、コロナ禍に実施された無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済本格化、2024年問題による物流コストの増加など、中小企業を取り巻く環境は依然として厳しい状況が続いています。中小企業が直面している資金調達の現状と課題について考察し、資金調達手段の1つである「オンライン型ファクタリング」の概要や今後の展開について、全2回に分けて解説します。

中小企業の資金調達の現状

企業が事業を営むうえで、運転資金の調達が必要になりますが、特に中小企業の場合は資金調達の基盤が必ずしも整っていないため、多くの中小企業が運転資金の確保に苦労しています。

中小企業の資金調達先として最初に頭に浮かぶのは金融機関です。そこで、中小企業にとっての必要運転資金は、金融機関借入でどの程度、賄われているのか、マクロ的な計数で確認してみましょう。

ここでは、中小企業庁が公表している「中小企業実態基本調査」の令和元年確報(平成30年度決算実績)を用います。この統計はサンプル調査に基づくものであり、全中小企業を網羅しているわけではありませんが、全体の傾向を見るには十分です。また、これは新型コロナウイルス拡大前の統計のため、「非常時」ではなく「平常時」における中小企業の資金需要を把握するには適しているといえます。

  • 中小企業における資金需要の概要

    中小企業における資金需要の概要

必要運転資金を「受取手形・売掛金+棚卸資産-支払手形・買掛金」とすると、中小企業(法人企業)にとって、必要運転資金は約52兆円、金融機関からの短期借入金は約33兆円となります(売上高5億円未満の場合は、必要運転資金約15兆円に対し、約10兆円の借入)。つまり、中小企業は、必要運転資金の6割ほどしか金融機関からの短期借入金でまかなえていないのです。

日本の大企業における資金需要が高度成長期に比べて乏しい現在では、金融機関は中小企業の必要運転資金需要にさらなる融資によって応えていける余地が十分にあるとも考えられますが、マクロの計数を見る限りそうはなっていません。その背景には、中小企業側と金融機関側それぞれに事情があります。

中小企業と金融機関における必要運転資金需要の現状

まず、中小企業側の事情を説明します。中小企業の場合、規模が小さいため資金繰りの専門知識を有する部署や担当者を配置しているケースはほとんどなく、経営者レベルの方が本業の傍らで資金繰りを回しているのが実態です。

このため、金融機関からの借入のための決算書や各種証明書といった資料準備や説明・交渉に十分な時間を割ける人は少ないでしょう。さらに、複数の金融機関からの借入を試みようとすると、手間はその分増大します。よって、中小企業にとっては、金融機関からの借入のハードルは相当高くなっています。

次に金融機関側の事情について説明します。中小企業は事業規模が小さく、担保となる優良資産を潤沢に持っているわけではありません。したがって、設定可能な融資枠は大きくなりにくいです。

  • 中小企業と金融機関それぞれに事情がある

    中小企業と金融機関それぞれに事情がある

また、中小企業の場合、借入の希望金額は大企業よりも少なくなるため、金融機関の事務コストを上回る収益を得づらく、金融機関としては融資に及び腰になります。このため、金融機関は一定以上の事業規模の企業を融資の対象とすることが多くなります。

そうすると、中小企業が必要運転資金を調達しようとするときの、金融機関からの借入以外の手段は何があるのか、ということになります。

返済が本格化する「ゼロぜロ融資」

筆者は数年前にオンライン型融資事業を手掛けていました。その際の審査の経験からすると、中小企業は多くの場合、金融機関のほかには経営者本人や、親族といった関係する個人から資金を調達していました。

この背景には、貸金業者が減り続けていることや手形の取扱いも減少してきていることもあると考えられます。個人からの資金調達は、マクロ的な経済ショックが発生した場合、安定的な資金調達手段であるとはいえません。資金を貸してくれた知人がリーマンショックのような経済ショックの影響を受けて、資金提供ができなくなることも十分にあり得るためです。

なお、コロナ禍においては、中小企業などに向けて、いわゆるゼロゼロ融資が実行されました。長期借入金ながら、資金使途として運転資金も可能となったことから、先に示した図にある「不足」はこれによって部分的にカバーされたと考えられます。

しかし、ゼロゼロ融資はすでに返済が本格化しているなど、中小企業の有力な資金調達手段の1つとして恒常的に位置づけられるものではないことは言うまでもありません。

このように見てくると、わが国の中小企業の資金調達における課題として、金融機関からの借入以外の調達手段を確保すること、つまり調達手段の多様化が挙げられることになります。

次回は多様な資金調達手段のうちの1つである、オンライン型ファクタリングについて解説します。