シヤチハタは2月19日、メディア向けのラウンドテーブルを実施。同社が提供する電子印鑑捺印サービス「シヤチハタクラウド」の機能や現在の利用状況を紹介するとともに、同社が中小企業へ行ったDX意識調査の結果を発表した。本稿ではその一部を抜粋し、中小企業のDXの現状とシヤチハタが提案する解決策についてレポートする。
法改正が影響し、捺印数は前年比224%成長
1925年にスタンプ台メーカーとして創業した同社は、高度経済成長期の事務合理化の潮流を受けて、1965年にスタンプ台のいらない印鑑「Xスタンパー」を発売した。その後は試行錯誤を重ねながら個人向けのネーム印、フォントの開発など世の中のニーズに合ったサービスをリリースしてきた。
1995年にデジタル印鑑「パソコン決裁」をローンチ。2017年には「働き方改革」が世間で叫ばれたことをきっかけに、現サービスの前身となるクラウド型SaaS「パソコン決裁Cloud」をリリースした。2020年のコロナ禍突入を受け、リモートワークでの活用を前提としたSaaSが大きく広まったタイミングで、現在の「シヤチハタクラウド」へのリブランディングを実施した。
同製品は、2020年の名称変更から3年で捺印数が1億1000万回を突破。特に、2022年の捺印数は前年比224%と大きな伸びを見せた。シヤチハタ 広報室 向井博文氏はその理由について「インボイス制度と電子帳簿保存法の施行が大きな契機になっている」と分析する。
中小企業は「DXを進めたいけどできない」ジレンマを抱える
向井氏によると、「世の中のDXの流れが、我々が思っているところと違うのではないか」とシヤチハタ内で問題提起があったのだという。そこで、2023年12月に中小企業の経営者ならびに決裁者500名を対象にアンケートを実施。「中小企業のDX化推進に対する意識調査」と題して、中小企業の生の声を収集した。
その結果、DX化に取り組んでいない企業は約76%と、中小企業のDX化が進んでいないことが判明。未着手の理由はさまざまだが、対象となった企業の経営者・決裁者が「DX化」と「IT化」の明確な違いを把握していないことも浮き彫りになったという。
さらに、DX化に対して「ハードルが高い」(75.4%)「アナログな企業には難しい」(71.9%)など、後ろ向きなイメージがあることも分かった。その一方で、DX化に取り組めていない経営者・決裁者のうち半数以上は「DX化したい」と回答している。
こうした結果を踏まえ、向井氏は中小企業ならではの課題を挙げた。
「DX化をしたいけどできない、という声が上がったことは我々にとってインパクトが大きかったです。中小企業には、一つの部門に所属しながら、他にも多くのタスクや領域を抱えている方々が多いはずです。それに加えて『DX化を推進しましょう』と言うのは気後れしてしまうのではないでしょうか」(向井氏)
中小企業に薦める解決策「できるとこからトランスフォーメーション」とは?
調査の結果から見えたように、中小企業のDX化においては「進めたくても進められない」という現状があるとシヤチハタでは認識しているという。そこで同社が提案するのは「できるとこからトランスフォーメーション」というスローガンだ。これについて向井氏は次のように説明する。
「DX化やデジタル化のゴールを高く設定しすぎてしまうと、デジタル化自体が前に進まないと思います。我々自身もこの数十年間で失敗を繰り返して、今ではクラウドを中心にしたデジタル商材を提供できるところまで来ました。だからこそ、我々は『できるとこからトランスフォーメーション』をお薦めします。目の前の仕事を簡便な方法でデジタル化していくのはいかがでしょうか、という提案です」(向井氏)
シヤチハタでは、顧客のできるとこからトランスフォーメーションの実現のため、シヤチハタクラウドを起点としたサポート体制を充実させていくとのこと。同サービスは1人当たり110円から利用できるほか、グループウエアの提供やクラウドストレージサービスとの連携も強化している。まさに、目の前のできるところからDX化を進め、そのスケールを徐々に大きくできる仕組みだ。
ラウンドテーブルの最後に向井氏は「シヤチハタが提供しているサービス自身も、お客さまそれぞれの声からニーズを収集して、新たな機能開発を行ったことがある。常にお客さまと一緒にサービスを作りながら、お手伝いをしていきたい」と意気込みを語って締めくくった。