政府が音頭を取り、国を挙げてDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む機運が高まっているが、自治体も例外ではない。小誌でも、大分県、横須賀市、加賀市のDXを取り上げてきた。
そして、47ある都道府県庁の中でも積極的にDXに取り組んでいるのが佐賀県だ。ITでビジネスの変革・創出に挑む企業のDXを後押ししている同県は、企業を訪問して伴走型の支援を行うとともに、AIの開発が行える人材と社内のDXリーダーの育成を支援している。ここにきて、育成した人材が活躍できるよう、新たな取り組み「Smart Terakoya」をスタートした。
そこで今回、佐賀県のDXを推進している佐賀県 産業労働部 産業DX・スタートアップ推進グループ 総括監 北村和人氏、トレジャーフット 代表取締役社長 田中祐樹氏に話を聞いた。トレジャーフットは「Smart Terakoya」の運営を請け負っている。
駆け込み寺×押しかけ×伴走でDXを支援
北村氏が所属している産業DX・スタートアップ推進グループは、「テクノロジーとビジネスの未来をデザインする」をミッションとし、「DXとスタートアップをテーマにイノベーションにチャレンジできる地域へ」をビジョンとして掲げている。さらに、「デジタルを佐賀のビジネスの常識へ」と「佐賀から世界を目指せる起業環境を」をゴールに設定している。
こうしたミッション、ビジョン、ゴールの下、同グループはビジネスと人材の2つの側面からDXに取り組んでいる。北村氏は「一つのグループがデジタルと起業に取り組んでいる自治体はほとんどありません」と話す。
同グループの特徴的な取り組みの一つが、DXを推進するハブである産業スマート化センターの立ち上げだ。同センターはいわば「DXの駆け込み寺」であり、DXにまつわる相談を受け付け、助言を行う。
さらに興味深いのが、デジタル利活用の実態把握や啓発を行うため、DXコミュニケータが県内の企業を訪問することだ。DXコミュニケータは各地の実情に詳しい企業が請け負う。
「DXに取り組まなければ」と考えていても、行動に移すことは簡単ではない。佐賀県はDXに踏み出せない企業が一歩を踏み出せるよう、積極的にコミュニケーションを図っている。「DXをやりましょう」と旗を振っているだけではないのだ。「待っているだけでは進みません」と北村氏は語る。
DXに取り組んでいる企業に対しては、「DXアクセラレータ」が3~4カ月程度支援する。さまざまなベンダーが標榜している「伴走支援」だ。県が後ろ盾となっている支援であれば、企業も安心だろう。
DX人材を育成する取り組み「Smart Samurai」と「Smart Ninja」
そして、人材を育成する取り組みとして、「Saga Smart Samurai」と「Saga Smart Ninja」を実施している。「Smart Samurai」はAI等の開発人材を育てる講座で、2020年に開始した。「Smart Ninja」は社内のDXリーダーを育てる講座で、2022年に開始した。
「Smart Samurai」はIT企業においてプログラミング人材を増やすべく、Pythonに関する教育を行う。4カ月間のプログラム、定員は100名となっている。毎年500~700名が応募する人気講座とのこと。
一方、「Smart Ninja」では、Money FowardやkintoneといったSaaSを活用して、業務の効率化を実現できるようなスキルを学ぶ。
「Samurai」という名称には「刀一本で業務を乗り切るための技能を習得してもらうという意味が、また、「Ninja」にはITを道具として駆使して業務をこなしてもらうという意味が込められているそうだ。
いずれの講座も多くの卒業生を輩出しているが、技術を習得したものの県内で生かせる企業が少ないという課題が出てきたという。また、北村氏は「Smart SamuraiとNinjaで育った人を生かしたいと思っても、生かせる場が仕事の中だけでは限られています。また、仕事は会社で働くだけでなく、いろいろな仕方があります」と語る。
そこで、「Smart Samurai」と「Smart Ninja」で学んだ人がさらに可能性を広げるための学びの場として生まれたのが「SAGA Smart Terakoya」である。