今年一番のデジタル界隈のトピックと言えば、生成AI、特にChatGPTの席巻があるだろう。多くの企業が業務効率化のため、ChatGPTの導入を進めた。その流れは、地方自治体にも及んでいる。

石川県加賀市では2023年5月31日から、市役所でのChatGPT活用を開始した。一気にChatGPTのニュースが増えた同年4月頃から検討を始め、実質4週間程度で導入を実現したというから驚きだ。このスピード感ある取り組みを先導した加賀市役所 イノベーション推進部 リーダーの村中恵氏に導入までの経緯と、今得られている成果について伺った。

  • 加賀市役所 イノベーション推進部 リーダーの村中恵氏

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イノベーション推進部内での“お試し”を経て、導入を決定

村中氏が所属するイノベーション推進部は、市役所内のデジタル化を担う部署だ。ビジネスチャットアプリやプロジェクト管理ツールの導入といった実績もあり、2023年3月頃、ChatGPTの話題がマスコミなどで頻繁に取り上げられるようになったのを契機に、「業務に使えるかどうか検討してみよう」という声が上がったという。そこでまずイノベーション推進部内での使用を開始。使用シーンとしては、文章作成のサポートや、企画やイベントのアイデア出しなどがあった。自身も使用した村中氏は「ブレインストーミング相手、相談相手のように使えると感じた」と振り返る。

一方で、懸念点も上がった。広く言われていることではあるが、ChatGPTは「いかにも正しそうな意見やアイデアを返すが、それが正確で、信ぴょう性の高いものかどうかは分からない」という点である。また、「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる“質問の仕方”のノウハウを蓄積することも必要だと言う声もあった。地方自治体という特性上、特殊な用語や文書などもあるため、例えば「あなたは自治体職員です」というプロンプトをまず入力し、ChatGPTに役割を与えるといった工夫を重ねたのだという。こうして村中氏らは少しずつ、イノベーション推進部内でChatGPTを活用するための知見を貯めていった。

さらに、市役所の役割上、市民の個人情報や機密情報を扱うケースも多い。ChatGPTを使うことによる情報漏洩の危険性についても、何度も議論が交わされたという。このような検証・検討プロセスを経て、イノベーション推進部ではChatGPTの庁内導入を決定したのである。

「我々としては、懸念点や課題を念頭に置きながら使えば、それらの問題点があったとしてもなお、使うメリットがあるという結論に至りました」(村中氏)

わずか4週間で、導入のための環境を整備

庁内でのChatGPT導入に向け、イノベーション推進部では早速、さまざまな準備に取り掛かった。運用マニュアルや利用ガイドラインの作成に加え、PIA(Privacy Impact Assessment:プライバシー影響評価)に照らし合わせた対応の確認も実施。PIAの結果は加賀市の公式ホームページでも公開した。そして職員への利用説明会を行い、5月末には正式導入に至る。イノベーション推進部でChatGPT活用のアイデアが出てから「実質4週間程度」(村中氏)という早い展開だ。検討から導入までを短期間で進めた点について、村中氏は「DXに関わることはスピード感が大事だという認識でいる」と語る。

利用者の声を聞きつつ、新たなステップを探る

イノベーション推進部が開催したChatGPTの利用説明会には任意であるにも関わらず、120名以上が出席した。説明会終了後に実施したアンケートから、村中氏らは改めて職員のChatGPTへの関心の高さを感じたという。アンケートによると、回答者60名のうち、約半数がすでにChatGPTの使用経験があり、説明会後には大半の職員が実際にChatGPTを使用し、また仕事に役立ちそうだと回答した。

これらのアンケートの結果を踏まえ、イノベーション推進部では今後、職員の利用状況をさらに収集し、ChatGPTの有効性を検証していくという。検討事項としては、現在使用しているGPT-3.5から有償のGPT-4へバージョンアップする価値があるのかなどが挙げられている。また、村中氏自身は「日本語モデルを使用している国産のAIについても検証していきたい」と考えているそうだ。

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企業だけでなく、地方自治体でも進むChatGPTの導入。スピード感を持って取り組んだ加賀市の例は、今後導入を検討する自治体や企業にとって大いに参考となるだろう。