群馬県沼田市は、市政改革大綱を定め、人口減少や逼迫する財政状況などの直面する課題へ取り組み、持続的行政サービスの提供を行うことを掲げている。

そうした中、副市長の川田正樹CIO(Chief Information Officer)をトップとしたDX推進室を令和4年度から新たに組織し、デジタルを活用した業務変革、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。具体的には、スマート自治体を推進するため、効果的な手段としてAIやRPAの導入を進めている。

当初は、有償のRPAソフトを導入し効果を上げていたが、浮かんできた課題を解決するため、オープンソースのPythonとRPAソフトに切り替えた。これにより、どのような効果が得られたのだろうか。

この一連の取り組みについて、沼田市総務部企画政策課 課長 星野盾氏、DX推進室長 鳥羽雄一郎氏、主査 石澤賢一郎氏、主任 原沙和氏に聞いた。

  • 左から、沼田市総務部企画政策課 主任 原沙和氏、DX推進室長 鳥羽雄一郎氏、課長 星野盾氏、主査 石澤賢一郎氏

DX推進のドライバーは人材、OJTで育成する

沼田市は、DXの推進において、「効率的な行政運営の推進」「スマート自治体の推進」「人材育成」の3点を柱としている。星野氏は、沼田市が進めるDXの戦略について、次のように語った。

「これまでは、人員削減するためにOA化が行われてきましたが、現在は人員不足を補うために、デジタル技術を投入して、トランスフォーメーションせざるを得ません。必要に迫られて、トランスフォーメーションをするというのが実態です。DXを進めていく中、Pythonが大きな力になると考えています」

行政運営およびスマート自治体を推進するにあたっては、適切な人材が不可欠だ。そのため、沼田市では、人材育成からDXが始まった。

星野氏は、「われわれはOJTを重視しています。なぜなら、実践的な取り組みをしないと、力がつかないからです。ただ、OJTだけでは足りません。ビジョンを持った職員を育てながら、OJTによってスキルアップを図ることを狙っています」と話す。

「田村塾」で表現力と論理的思考力を向上

人材育成の一環として、始まった取り組みが「田村塾」だ。これは、メガバンク系イノベーション企業でAI開発などを手がける田村吉章氏をDX推進官として招聘し、同氏が中心となって進めている人材育成プログラムだ。

令和3年度から毎年、各部から選出したメンバー10人程度が「田村塾」に参加しており、今年で3年目となる。

  • 左から、川田正樹副市長、田村吉章DX推進官

「田村塾」では、DXなどの未経験の領域に触れる際に重要な基礎力を学ぶ。基礎力とは、「表現力」と「論理的思考力」だ。表現力としては、資料作成を通してスッと理解できる文章の作成技術を習得する。また、論理的思考力としては、プログラミング演習やフローチャート作成などを習得する。

  • 「田村塾」で習得できる「表現力」と「論理的思考力」

鳥羽氏は、田村塾について、「自治体としては珍しい取り組みです」と話す。

田村塾の受講者が習得した力を発揮して、RPAの開発をスタートした。いわゆる「内製化」だ。沼田市では、田村塾により職員のスキル向上が進んでいることから、RPAによるDX推進は内製化で進めている。

アウトソーシングを導入している自治体は多いが、鳥羽氏は「アウトソーシングは適切に使うことが大切です。アウトソーシングに頼りすぎると、業務を組み立てる力が失われます」と話す。

  • 「田村塾」で学んでいる沼田市職員の皆さん

13業務へのRPAの適用で、年間800時間の業務時間を削減

RPAの活用は令和4年度から始まった。同年度は13業務にRPAを適用し、年間800時間の業務時間を削減できたという。令和5年度も13業務へのRPAの適用が見込まれている。

沼田市では、システム化するとコストに見合わない、数百件程度のデータを扱う業務に対し、RPAを適用しているという。

原氏が、RPAを適用して最も効果が出ている業務として、市民課と税務課が行っている、証明書発行に伴う手数料に関する伝票発行業務を紹介してくれた。

具体的には、POSレジから抽出したデータをExcel形式に変換して、伝票を発行するシステムにデータが張り付けられる。データのコピーが終了したら、プリンタで印刷するだけの状態になる。

この業務について、市民課だけで年間250時間削減できており、税務課でも同じシナリオが動いているので、100時間ほどの削減が見込まれるそうだ。

この業務はExcelから行うとなると、1日1時間ほどかかってしまうところ、RPAを導入することですべて自動化されている。