米国内における半導体製造強化策であるCHIPS法に基づき、米国商務省とGlobalFoundries(GF)が約15億ドル(約2250億円)の助成金提供に向けた拘束力のない予備的現覚書(PMT)に署名したと、米商務省傘下のNIST(国立標準技術研究所)のCHIPS for Americaオフィスが2月19日(米国時間)に発表した。PMTは、助成金支給の第一歩であり、この後、複数の手続きを経た後に正式に支給されることとなる。

米商務省によると、この助成金は米国のサプライチェーンを強化し、現行世代ならびに成熟プロセスの半導体生産における米国の競争力を強化し、経済および国家安全保障能力をサポートするのに役立てるためのものだという。GFは、この資金で自動車、通信、軍事防衛向け半導体を生産するニューヨークとバーモント州にある製造拠点の近代化を図り、成熟プロセスの生産能力を拡張するとしている。

ここ数年にわたって成熟プロセスによる車載半導体が不足したことで、米国の自動車製造拠点の閉鎖だけでなく、米国における幅広い商品が入手困難になったり価格が高騰するなどの問題が起こったが、今後そうした事態が起こらないようにするための施策だと米国政府では強調しており、この助成金の一部は、GFが2023年に戦略的長期供給契約を結んだゼネラル・モーターズ(GM)向けの車載半導体製造施設の拡張を支援するものだとしている。

このGFの半導体製造施設の拡張により、生産能力の向上、サプライチェーンの強化、防衛軍事産業に重要となる技術の米国でのオンショアリング(国内生産化)などが可能となり、米国の経済と国家安全保障の前進につながるとしている。GFの複数の米国拠点は、米国防総省によって「(国防上)信頼に足るファウンドリ」として長い間にわたって認定されてきた歴史を有しており、今回の助成金により、軍事産業との関係が強化されることが見込まれる。国防総省では、衛星通信や宇宙通信などの国防用途に関してGFが製造を担当した半導体に依存しており、例えばジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)や国際宇宙ステーション(ISS)などといった、米国の宇宙における技術的リーダーシップもサポートしているという。

ニューヨーク州は300mm工場、バーモント州は200mm工場に投資

提供される15億ドルは、主に以下の3つのプロジェクトで活用されることとなる。

  1. マルタ(ニューヨーク州)の新しい300mm工場の建設。既存のインフラを活用し、建設から生産までを迅速化する。
  2. マルタのGMとの戦略的合意を含む、自動車向け既存製造施設の拡張。上記の新工場と併せて、マルタ工場の生産能力は今後の10年間で3倍に増加することが予想され、すべての拡張を終えると年間100万枚の生産能力を獲得するという。
  3. バーリントン(バーモント州)の200mm工場の再活性化。既存の200mm工場(元IBMのバーモント工場)を米国初となるGaN on Si向け工場に転換し、電気自動車や電力グリッド、5G/6Gなどで求められるニーズを満たす。同工場では、100%再生可能エネルギーの活用や、年間消費エネルギーの最大9%を供給するオンサイト太陽光発電システムの開発などといった持続可能性の取り組みを進める。

米国政府はGFに人材教育資金も提供へ

両者の覚書には、GFが現在および将来必要とする施設や建設人材を提供するために、地元の労働力、教育、訓練、地域ベースの組織と協力して専門人材の育成に向けた資金として約1000万ドルを提供することも記載されている。GFは、米国初の登録半導体研修プログラムである「GFメンテナンス技術者研修プログラム」を立ち上げ、2022年に最初の研修生が卒業を迎えているが、今回の資金を活用する形で、この種の教育訓練プログラムを充実させ、今後10年間で約1,500人の工場エンジニアの雇用と約9000人の建設従事者の雇用を創出するとしている。

GFでは、事業運営にとって従業員のケアが重要であるとしており、現在、子供の保育サービスを提供しているが、その対象を工場の建設労働者にも拡張することにしている。ニューヨーク州での取り組みとしては既存のプロジェクト労働協約(PLA)に基づいて運営される予定で、バーモント州でもPLAを設立する手続きを進めるとしている。ちなみにCHIPS法による助成金の支給条件には、中国における投資規制への対応のほか、企業内保育施設の設置といった多数の必要項目が記載されており、そうした条件をすべてクリアする必要がある。

米国政府はGFに16億ドルの融資も実施へ

なお、CHIPS for America事務局によると、米国政府は、CHIPS法に基づく直接的な資金提供に加えて、覚書に基づく形でGFに対して約16億ドルの融資も実施する予定だという。

今回のGFに対する助成金支給は、成熟プロセスによる半導体製造支援であり、14/12nmでシリコン半導体プロセスの微細化を中止したGFの最先端製造を促すものではない点に注意が必要だえる。CHIPS法に基づく助成金支給の本命といわれているIntel、TSMC、Samsungの米国内での先端プロセス対応半導体工場の建設に対する米国政府の資金提供は、各社ともに工場建設に着手済みであるにもかかわらず未だに支給の決定が発表されておらず、関係者をやきもきさせて事態が続いている。