新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、九州大学(九大)、日東電工、二次元材料研究所、中央大学(中大)、大阪大学(阪大)、産業技術総合研究所(産総研)の7者は2月13日、「二次元物質」に特化した紫外線で粘着力が低下する機能性テープを開発することに成功したと共同で発表した。
同成果は、九大 グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹主幹教授、日東電工、二次元材料研究所、中大の李恒助教、同・河野行雄教授、九大 先導物質研究所の吉澤一成教授、九大大学院 総合理工学研究院の辻雄太准教授、阪大 産業科学研究所の末永和知教授、産総研の林永昌主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエレクトロニクスの全般を扱う学術誌「Nature Electronics」に掲載された。
グラフェンに代表される二次元物質を用いたデバイス作製では、金属などの成長基板から、シリコン基板やフレキシブルなプラスチック基板などに移すプロセスである「転写」を行う必要がある。現在の合成法では、グラフェンは破れたり汚れたりしやすく、さらに高環境負荷なことなど、転写に関連して多くの問題を抱えているという。破れや汚れは、二次元物質本来の特性を著しく低下させてしまうことから、それらの心配がないかつ簡便で作業者を選ばず、大面積の基板に使える転写法が求められていた。そこで今回の研究では、従来にない「テープ転写法」の開発を試みることにしたという。
まず、さまざまな機能性テープの検討が行われ、紫外光(UV光)を照射すると粘着力が1/10程度に小さくなる「UVテープ」が注目された。テープ転写法のポイントは、最初にUVテープの粘着力が強い状態でグラフェンを密着させてテープ側に「キャッチ」させ、次にUV光を照射してテープの粘着力を弱め、そこで「リリース」してグラフェンを基板に移す「キャッチ・アンド・リリース」を行う点。科学的にはUV光でグラフェンと粘着剤のファンデルワールス力を制御して転写につなげたことを意味するという。
なお今回の研究では、効率的にUVテープ開発をするためにAIが活用され、最高で99%の転写率が達成されたほか、UVテープによるグラフェンは従来法に比べると破れや残渣が大幅に少なく、かつ表面が平滑であり、転写を短時間で行えるようにもなったとした。
次に、テープ転写法を用いたグラフェンでトランジスタが作られ、グラフェン内を流れるキャリア移動度の測定が行われた。すると、UVテープの転写膜でより高い移動度分布を得ることができたという。また今回のテープ転写法であれば、従来法とは異なって銅触媒を幾度も再利用できることから、環境負荷の点でも優れているとした。
さらに、テープ転写法の粘着剤などの最適化が行われ、「遷移金属ダイカルコゲナイド」(TMD)の代表で、半導体二次元物質の「二硫化モリブデン(MoS2)」や、絶縁性の「六方晶窒化ホウ素」(hBN)など、ほかの二次元物質でも利用できるようにしたとする。なお、テープ転写によるMoS2を用いて良好なトランジスタの動作も確認済みとした。さらに、今回のテープ転写法では、hBN→グラフェン→hBNと、異なる二次元物質による3回の転写も実現できており、複数の二次元物質を重ねた積層構造の作製も可能としている。
またUVテープは、高分子膜とは異なってある程度の硬さがあるので、はさみなどでカットすることも可能だという。たとえばMoS2をキャッチしたテープをはさみでカットし、得られた小さなテープを所望の位置に貼り付けて転写し、最後に電極を取り付ければ、容易にMoS2デバイスを多数得ることもできる。この方法の利点は、必要なところだけに二次元物質を貼り付ければ良いので、大幅に同物質を節約できる点だとし、方向の揃った二次元物質を使って角度を変えながら積層することも可能な点も利点だとした。
UVテープは、高分子保護膜と違って「リリース」時に有機溶媒を使う必要がなく、かつ柔軟性もあるため、さまざまな素材や形状のものに転写することができる。特に、プラスチック製の眼鏡やフレキシブルなポリマー基板に転写できることなどは大きな利点とした。また、半導体のMoS2を導電性のあるグラフェン電極ではさんだ構造もテープ転写では可能である。
最後に、グラフェン、hBN、MoS2、WS2などがすでにテープに貼り付けてあるUVテープを用意することで、ユーザーは目的のテープを手に取り、基板に貼り付けて剥がすだけで二次元物質を転写できるようになるとする。このような極めて簡便な手法をエンドユーザーに提供することにより、テープ転写法が二次元物質の産業化に大きな役割を果たすことが期待できるとした。
現在、最大で4インチ(Φ100mm)のグラフェンが転写できているが、ポストシリコンデバイスやセンサなどの産業応用を見据えて、研究チームは今後、より大きなウェハレベルでの転写を各種二次元物質で目指していくとした。テープ転写法を多くの研究者が使えるようにし、二次元物質研究の活性化や、同物質の新たな応用分野の開拓、そして新産業創出につなげていきたいとしている。