東京工業大学(東工大)とLG Japan Labは、 LG Material&Life Solution協働研究拠点において、低温(55℃~)で8μCcm-2を超える巨大な自発分極と8000を超える比誘電率を有する強誘電性二量体分子液晶を開発したことを発表。記者会見を開催し、研究成果の説明などを行った。
東工大とLG Japan Labの共同研究の始まり
東工大では、産業界と密接に連携し、新規事業開拓から社会実装までを総合的に目指した共同研究でオープンイノベーションを推進する動きが活発化しており、ノーベル賞を受賞する研究者も在籍するなど多くの研究成果を残している。2021年、そうした実績と理念にLGグループが共感し、融合複合型未来技術/未来製品の提案型R&D推進などを担うLG Japan Labとの間で共同研究体「LG Material & Life solution 共同研究拠点」を東工大内に設置する形で社会実装に向けた情報材料科学や高機能性材料などに関する共同研究が開始した経緯があるとする。
今回の研究成果は、東工大 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の中杉茂正 民間等共同研究員、同 石崎博基 特任教授、同 姜聲敏 特任准教授(以上、LG Japan Lab研究員兼務)、同 曽根正人教授、同 渡辺順次 特任教授、同Tso-Fu Mark Chang(チャン・ツォーフー)准教授、同大 工学院 電気電子系 の間中孝彰 教授ら共同研究チームによるもの。詳細は「The Journal ofPhysical Chemistry B」に掲載されている。
強誘電性液晶は、通常の液晶に比べて高い自発分極と比誘電率を示すことから、電子デバイスにおいて応用が期待されているほか、高速スイッチング性やメモリ効果を有するため、微細画素構造を必要とするホログラフィックディスプレイの実現に好都合な材料としても注目されている。
強誘電性の発現には、分子の対称性を低下させる必要があり、そのため3次元の物体がその鏡像と重ね合わすことが出来ない性質を有する分子である「キラル分子」を導入したキラルスメクチック-C相や特異な官能基を有するネマチック相、屈曲構造を持つ屈曲分子などがこれまでに開発されてきたという。
通常の屈曲分子は芳香族中心核の1、3位に液晶性を発現するような剛直な部位である「メソゲン」が連結しているバナナ分子がみられるが、屈曲分子の一部には「二量体分子」という特徴的な分子が存在しており、メソゲンの連結部として柔軟なアルキレン基(炭素数が奇数)が含まれていることなどが知られている。
二量体分子液晶は、アルキレン基によって通常の屈曲分子に比べ低温での強誘電相の形成が可能である特徴を有し、応用展開の面で優れていることが考えられたことから、研究チームは今回、二量体分子に焦点を当て巨大な自発分極および比誘電率を有する新規材料の開発に挑んだという。
低温で巨大な自発分極および比誘電率を有する強誘電性二量体分子液晶の開発に成功
同研究では、巨大な自発分極および比誘電率を実現するために、大きな双極子モーメントを持つ新規な二量体分子の開発を実施。具体的には、フッ素置換されたメソゲンコアをサイドウイングとしてペンタメチレンスペーサーで連結した構造を持つ、「di-5(3FM-C4T)」という二量体分子を合成。このdi5(3FM-C4T)のメソゲンコアは密度汎関数理論により、11.2Dという大きな双極子モーメントを持つことが判明したという。
また、NF相はU字型分子から構成され、自発分極が約8μCcm-2という高い値を示し、メソゲンコアの大きな双極子モーメントを反映している一方で、SmAPF相は、屈曲した形状の分子から成り、自発分極が約4μCcm-2を有していたことが判明。この自発分極は屈曲角が120°を反映した双極子モーメントであるためNF相の半分であるものの、従来の屈曲分子の中では最高水準とのことで、高温側のIsoP相については、構造解析中であるとしているが依然として極性構造を示し、小さなドメインに分子の極性凝集がある可能性を示しており、これらの極性相は巨大な双極子モーメントを反映した8000を超える比誘電率を示すことを解明したとする。
今回の研究結果をふまえた今後の応用展開
研究チームでは今回、開発された巨大な自発分極と比誘電率を有する二量体分子を媒体として適用することで、我々の生活の中にあるさまざまな高性能電子デバイスの実現が可能になるという。
例えば、コンデンサに適用する場合、理論値として従来技術比で1000倍の容量を実現できるため、電子機器の小型化と低消費電力化が実現できるようになる。また、圧電素子や静電アクチュエータへ適用する場合は、理論値としてやはり従来技術比で1000倍の出力を出すことができるようになるため、低電圧駆動が可能となり、今まで高電圧のため人間に装着できなかった手指や歩行をアシストする製品も装着することができるようになるとする。さらに、3次元映像表示素子への応用では、微細画素構造において画素間のクロストークが発生しにくく、高速光スイッチングが可能となり、ホログラフィックディスプレイの実現技術として有望であることが示されたとしている。
なお、研究チームは今回の研究を通じて開発された二量体分子の3つの極性相は粘性液体であるため、実用化においてはエラストマー化やゲル化といった固定化技術の研究が必要不可欠であるとし、今後も研究を進めていくとしているほか、そうした新たな研究を通して固定化技術が進展すれば強誘電性材料の適用分野が拡大し、新たな応用分野への展開も期待できるようになるとしている。