東京工業大学(東工大)は1月26日、生命発生に有利な惑星環境とされる、一酸化炭素(CO)に富んだ惑星大気(以下、CO大気)が形成される条件を理論的に明らかにしたことを発表した。

同成果は、東工大 理学院 地球惑星科学系の尾﨑和海准教授、東京大学の渡辺泰士客員共同研究員(現・気象庁気象研究所リサーチアソシエイト)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

初期地球の大気は、二酸化炭素(CO2)と窒素に富むものだったと考えられている。しかしCO2よりもCOに富む大気の方が、生命の前駆物質となる有機化合物が形成されやすいことがわかっている。これまでの研究から、COが大気中で暴走的に生成されて蓄積する「CO暴走」状態が存在することが明らかにされており、その理解は地球生命の起源を探る上でも重要な手がかりとなる可能性があるというが、大気がCO暴走状態に至る条件は不明だったとする。

  • 還元的な大気海洋系でのCO収支の概略図

    初期地球など、還元的な大気海洋系でのCO収支の概略図。COは主に紫外線によるCO2の光解離で生成される。一方、COの消費はOHラジカルによる酸化で起こる。OHラジカルは水の光解離反応によって供給されるため、水の光解離速度を上回ってCO生成が生じる条件では、大気中にCOが一方的に蓄積する「CO暴走状態」に陥ると考えられている(出所:東工大プレスリリースPDF)

そこで研究チームは今回、大気中のさまざまな分子の間の化学反応をシミュレーションできる理論モデル「Atmos」を用いて、まず初期地球の大気中のCO2、CO、メタン(CH4)の存在量比の多様性、そしてCO大気が形成される条件を詳細に調べたとする。

シミュレーションの結果、大気中CO2濃度が高い条件ほど、対流圏での水蒸気の光解離反応に比べてCO2の光解離反応が促進され、CO生成速度が水蒸気の光解離速度を超える段階でCO暴走が発生することが判明した。また、火山からの還元的なガス(水素分子(H2)やCO、CH4など)の流入フラックスが大きいほど、大気中のOHラジカルが消費されるため、CO暴走が発生しやすくなることも解明された。

このCO大気の形成条件は、初期地球の大気のCO2分圧や火山からの還元的なガスの供給速度の推定範囲内だという。特に、生命発生前夜の約40億年前の初期地球で、火成活動による還元ガスの供給速度が現在の10倍以上だった場合には、CO暴走状態にあった可能性が明らかになったとし、さらにCO大気からは、大量のCOや有機物が海洋へと供給されることも確認されたとする。

  • 40億年前の初期地球大気における一酸化炭素分圧(pCO)とメタン分圧(pCH4)のシミュレーション結果

    40億年前の初期地球大気における一酸化炭素分圧pCO(左)とメタン分圧pCH4(右)のシミュレーション結果。横軸は火成活動による還元的なガス(H2やCH4)の流入フラックスであり、縦軸は大気中二酸化炭素分圧pCO2である。図中の灰色線はCO暴走の発生条件が示されており、これよりも右上の領域ではCOを高濃度に含む大気が形成されている(左図の赤い領域)。水色のバーは、当時の地球で想定されるパラメータ範囲が表されている(出所:東工大プレスリリースPDF)

さらに研究チームは、現在の太陽(G型星)、「うしかい座シグマ星」、「エリダヌス座イプシロン星」を周回する、生命の存在しない仮想的な地球型惑星の大気についても、初期地球大気と同様のシミュレーションが実施された。その結果、表面温度が太陽よりもやや低いK型星のエリダヌス座イプシロン星のような恒星の周囲の惑星では、CO暴走が引き起こされやすいことが判明。一方、表面温度が太陽よりもやや高いF型星のうしかい座シグマ星のような恒星の周囲の惑星では、CO暴走が引き起こされにくいこともわかったとした。星は表面温度が高くなるほど紫外線照射が増えるため、この結果は、その紫外線照射フラックスの違いに起因した水蒸気の光解離速度の違いによって説明できるとしている。

なお、炭素循環の理論的枠組みに基づくと、大気中のCO2濃度は中心星からのエネルギーフラックスが小さい場合ほど高くなることが予想されるという。主系列星の光度は時間と共に増大するため、より若い太陽型星の周囲のハビタブルゾーンの外縁に位置する惑星ほど大気中CO2濃度は高く、CO暴走が発生しやすいといえるとする。

さらに還元的な惑星大気では、CH4/CO2とCO/CO2のパラメータ空間がCO暴走に起因するギャップ構造によって大きく二分されることも判明。このギャップ構造は、太陽のような星(F、G、K型星)を周回する地球型惑星に一般的な特徴であり、将来の系外惑星大気組成のデータ蓄積によって、検証可能な重要な理論的予測とした。

  • 初期地球、現在の太陽(G型星)、うしかい座シグマ星、エリダヌス座イプシロン星を周回する、生命の存在しない仮想的な惑星の大気のCO/CO2比とCH4/CO2の比の関係

    (a)初期地球、(b)現在の太陽(G型星)、(c)うしかい座シグマ星(σ Bootis・F型星)、(d)エリダヌス座イプシロン星(ε Eridani・K型星)を周回する、生命の存在しない仮想的な惑星の大気のCO/CO2比とCH4/CO2の比の関係。惑星の大気組成は、左側のCO暴走が発生していない状態と右側のCO暴走状態で大きく二分され、その間の状態はほとんど存在しない(出所:東工大プレスリリースPDF)

研究チームは今後、今回得られた海洋へのCOなどの分子の流入速度の推定を用いることで、初期地球の海洋で引き起こされる化学反応についての研究が大きく進むことが期待されるとする。

また火星に存在する有機物中に、CO暴走が過去に発生したことを示唆する著しい炭素同位体比の異常があることがわかっている。今回の研究成果をもとに、CO暴走大気を引き起こしうる過去の火星の大気組成を推定すれば、火星大気の進化史への理解の進展にもつながるとした。

さらに、太陽に近い表面温度を持つ星の周囲の地球型惑星の大気組成は、将来の直接撮像計画によって実際に観測されることが期待され、生命の存在する惑星や生命の発生に適した惑星を発見する上で重要な知見を与えるものとする。ギャップ構造を持つ惑星大気の分布が観測によって、今回の研究成果が裏付けられれば、ハビタブル惑星探査にも重要な意味を持つとしている。