東北大学と信越化学工業の両者は1月31日、「二次元マグノニック結晶」という周期性を持つ人工構造体を開発し、スピン波を照射したところ、入射角度を10度~30度の範囲で変えても反射するスピン波の周波数帯域がほとんど変わらないことを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東北大 電気通信研究所の後藤太一准教授、信越化学工業の共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Physical Review Applied」に掲載された。
AIや無人化技術などの利便性をより高めるためには、海外を含む遠方に設置された大規模データセンターとの早くて安定した通信や、高い処理能力を必要とする次世代モビリティに搭載可能なコンパクトかつ高性能な端末といった、基本的な技術のさらなる進展が必要だ。
そこで注目されているのが、スピン波を利用したデバイスだ。スピン波とは、電子の自転であるスピンの集団運動であり、個々のスピンの歳差運動(コマの首振り運動)が、空間的に波のように伝わっていく現象のことをいう。スピン波デバイスは、電流によって情報を伝える半導体回路とは異なり、スピン波によって情報を伝えるため、低消費電力かつ高集積化が可能な次世代のデバイスとして期待されているものの、その実現にはスピン波の生成・伝達・重ね合わせ・測定といった基本的かつ必要不可欠な機能を持つ素子を開発する必要がある。
スピン波は波であるため、構造などによって制御しなければ、ランダムな方向に伝播してしまうという特徴がある。研究チームは、そうしたスピン波の伝播方向の制御技術の開発に取り組んでおり、今回の研究では、スピン波が波であるという特性を利用してその伝播方向を制御したという。
まず、スピン波の損失が小さい優れた磁性絶縁材料の「磁性ガーネット膜」が作製された。次に、その上に直径1mm以下の小さな銅製ディスクが周期的に配置された二次元マグノニック結晶が形成された。量子化されたスピン波を「マグノン」といい、マグノニック結晶とはマグノンに対する結晶のことをいう。今回の研究では、銅のディスクを雪の結晶のような六角形のパターンに配置することで、スピン波を効果的に反射できる事実が発見された。このマグノニック結晶によって生じるスピン波が反射する周波数帯域は、「マグノニック・バンド・ギャップ」と呼ばれる。
続いて、このマグノニック結晶を回転させ、スピン波に対する入射角度を変えてみたところ、10度~30度の範囲でマグノニック・バンド・ギャップが発生する周波数がほとんど変わらないことが確認されたとのこと。この結果は、作製された二次元マグノニック結晶を活用すれば、スピン波の伝播方向を自在に制御できることを示唆しているとする。研究チームによると、これまでに二次元マグノニック結晶のスピン波入射角度に対する変化を実験的に確認した例はなく、今回が初の報告となるとしている。
今回の研究により、二次元マグノニック結晶の設計方法や、その構成部材である磁性ガーネットや銅に求められる高い性能、加工の精度といった、実際に作製してみなければわからない知見が得られ、ノウハウを蓄積することができたといい、これにより二次元マグノニック結晶の角度依存性が示された報告につながったとする。研究チームは今後、これらの知見を活用し、二次元マグノニック結晶を用いたスピン波の方向制御の実証、および、それを利用した機能的素子の開発を目指すとしている。また実用化に向けての効率の向上や構造の改善が必要だが、同技術を発展させることで、従来の半導体回路を凌ぐデバイスの実現が期待されるとした。