NTTドコモは1月17日~18日に、研究開発の成果を披露する展示会「docomo Open House’24」を東京国際フォーラム(東京都 千代田区)で開催中だ。1月17日~2月29日まではオンライン展示も実施する。
イベントでは5G(第5世代移動通信システム)やその次の6Gを見据えた通信技術をはじめ、コミュニケーション、都市デザイン、交通、生成AI、メタバース・XR(Extended Reality)などの分野から31のブースを展示している。本稿ではその中から、筆者が気になった技術をピックアップして紹介しよう。
遠隔地にいる指導医の手技をMRで学習する「Project the Hands」
コロナ禍への突入をきっかけに、在宅や遠隔をつなぐサービスとしてメタバースへの注目が高まった。多くの企業が参入しサービスを開発してきたが、その勢いはまだ止まらないようだ。イベントやゲームなどエンターテインメント領域の需要だけでなく、現在はビジネスや人々の生活に寄り添うサービスにおいても、その需要は高まっている。
XRの中でも、特に現実世界とデジタル世界を融合するMR(Mixed Reality:複合現実)を用いて医療現場を支援するサービスとして、「Project the Hands」が展示されている。これは、研修医に対してMRデバイスを通じて遠隔地にいる指導医の手や道具を映し、コミュニケーションを取りながらレクチャーできるというもの。
これまでは、口腔内など人体の部位によっては複数の手を入れてレクチャーすることが難しいという物理的な制約や、熟練の医師とリアルタイムにコミュニケーションを取りながら学べる人数と時間の制約が課題となっていた。
「Project the Hands」では遠隔地にいる指導医の手の動きを、リアルタイムに研修医のMRグラスに映し出すことが可能だ。将来的には、指導現場や臨床現場で蓄積された手技をロボットが再現し、無人手術のような技術の実現も見込めるとのことだ。
メタバースやXRをテーマとするブースでは、他にも個人の特徴を再現してAIとのコミュニケーションを図る技術や、XR技術を用いて遠隔地の人と卓球できる技術などが展示される。
AIによって道路の寿命を予測
世界の都市化が進んでおり、2050年までに人口の約70%が都市部に集中するという試算もあるそうだ。インフラを維持する際のコストや障害も過大となっており、特に国内の多くの自治体で財源確保などが顕在化している。このような課題への解決策として、都市デザインや快適な交通を支援する技術が展示される。
都市デザインのブースで目を引くのは、道路の劣化を予測するAIだ。国内の道路の老朽化が進む中で、道路を管理する自治体は技術者やインフラ管理のためのコスト確保を課題としており、効率的な道路監視と適切な修繕計画の立案が求められる。
これに対し同システムは、国土交通省が提供している全国道路施設点検データベースに基づき、舗装の材料や施工業者、経過年数、計画交通量を入力するだけで、道路の劣化の進み具合をAIが予測する。時間と予算をかけて道路の補修箇所を点検するのではなく、AIによって低コストかつ迅速に補修計画を策定できるとのことだ。
都市デザインや交通のブースでは、Starlink(スターリンク)の通信を活用して草刈りロボットの自動運転を実現する技術や、ドライブレコーダーの映像データの利活用を促す「モビスキャ」などが展示されている。
過疎バースに生成AIで賑わいを
近年急に活用の場を広げている生成AIは、今回もやはり多くのソリューションが披露される。NTTドコモでは生成AIを活用して、顧客一人一人の状況に合わせた柔軟な対応が可能なAI接客や、上司の人格を反映して1 on 1ミーティングを支援するデジタルツイン技術などを展開する。
メタバースを活用したサービスは多数存在するが、中にはユーザーが少なすぎて過疎バース(過疎+メタバースの造語)と呼ばれるようなサービスもある。そこで、メタバース空間内にNPC(Non Player Character:人が操作しないキャラクター)を表示してプレイヤーを引き付ける工夫が必要となる。
しかし従来の技術では、それぞれのNPCに対してクリエイターやデザイナーが外見と動きを付ける必要があるため、高額なコストと高い専門性が求められていた。NTTドコモが今回展示する技術は、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を活用してNPCの行動ロジックを生成する技術だ。人間がNPCに取ってほしい行動を自然言語でプロンプトを入力すると、AIが行動ロジックを自動生成する仕組み。
生成AIに関する技術のブースでは、他にも落合陽一氏を表現したAIのデジタルツインや、話者の感情を推定しながら接客するAIなどが展示される。
この他にも本稿でお届けしきれなかった多数の展示ブースが、会場には並んでいる。ぜひ現地またはオンラインで技術を体感し、共創の可能性を探ってほしい。