東北大学と公立はこだて未来大学の両者は1月5日、ニューラルネットワークの一種である「リザバーコンピューティング」の枠組みを応用し、自然界の複雑なダイナミクスを計算資源として活用する「環境計算(コンピューテーション・ハーベスティング)」の概念を実験によって実証したことを共同で発表した。

同成果は、東北大 材料科学高等研究所の安東弘泰教授、公立はこだて未来大の香取勇一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

  • 環境計算の概念図

    環境計算の概念図(出所:共同プレスリリースPDF)

AI技術をさらに進展させるためには、学習のための大量のデータとそれを処理するための大規模な計算機資源が必要となり、今後、IoT社会が構築されるにつれて実世界の無数のセンサから収集されるものも右肩上がりで増えていくとされている。しかし、IoTセンサからのデータは、街中の防犯カメラなど、現状のセンサの数でも必ずしもそのすべてを活用できているわけではないほか、AIに関しては、大規模な計算機資源が必要かつ大量の電力を消費することも大きな課題となっている。

そこで研究チームは今回、機械学習で用いられる「リカレントニューラルネットワーク」(RNN)について学習の効率化と計算量の削減のため、一部のモデルパラメータのみを学習するというアイデアのもとに提示された「リザバーコンピューティング」の枠組みを用いて環境中の物理現象を"そのまま"活用する環境計算という新手法を提案。コンピュータの消費電力を減らし、かつ普段使われていないIoTデータを活用するという理念のもとで、植物の映像をつかった風向風速推定法を提案し、その実現可能性を実験により示すことにしたという。

環境計算は自然現象を物理リザバーとしており、計算コストが低く、高速な学習を可能とするほか、リザバーコンピューティングの一種であることから、消費電力を減らすことも可能。今回の研究では、「風を受ける植物」とそれをカメラで撮影する実験システムが構成され、その植物の映像から検出した特徴点の動きに対し、リザバーコンピューティングの原理を適用しつつ、従来のような詳細な設計を必要としない方法論により風向きと強さを推定する実験が行われた。

実験の結果、植物の映像から抽出された情報の簡単な線形和(ベクトルの足し算)のみから、複数の異なる風向きとその強さを合わせて分類することが可能であることが示されたという。特に、分類に使用する特徴点を限定することによる手法のロバスト性が検証された結果、適切な選択をすれば3点のみの特徴点の動きの足し算からも風向きと強さを分類可能であることが示されたとした。

  • 植物の映像を利用した風向風速推定システム。植物(モンステラ)に対して、左右から強度3段階の6パターンの風を当ててビデオで撮影が行われた

    植物の映像を利用した風向風速推定システム。植物(モンステラ)に対して、左右から強度3段階の6パターンの風を当ててビデオで撮影が行われた。撮影された映像を画像処理することで、葉の特徴点を抽出し、その動きを物理リザバーの出力として把握。出力の線形和により、クラス分類を行った結果、映像データのみから風のパターンを今回のサンプルについてほぼ100%分類可能であることが示された(出所:共同プレスリリースPDF)

また、学習に用いていないパターンの風をあてた植物の映像に対しては、それ以外のパターンで学習したパラメータでも分類が可能であることも示されたとしている。

なお両者は今後研究を進めていくことで、既存インフラから取得可能な環境中の映像などの情報を利用した風速や日照量予測、それによる再生可能エネルギーの発電量予測などの技術開発にもつながることが期待されるとしている。