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レッドハットの三浦美穂氏は2023年7月1日付けで、代表取締役社長に就任した。それまで、同氏は日本IBMの専務執行役員 パートナー・アライアンス&デジタル・セールス事業本部長の職に就いており、IBMの成長に貢献してきた。

IBMは2019年にレッドハットの買収を完了したが、これまで両社の目立った連携は聞かない。そうした中、三浦氏がレッドハットの代表取締役社長の座に就いたことで、両社の関係強化が期待される。

これまで日本IBMで培ってきた能力やコネクションをどのようにレッドハットのビジネスに生かしていくのか、同氏に聞いた。

IBMとレッドハットは何が違うのか

ビッグベンダーとしてIT業界を牛耳ってきたIBMとオープンソース・ソリューションを提供してきたレッドハット。両社がこれまで歩んできた道は大きく異なる。IBMからレッドハットに籍を移した三浦氏は、両社の違いをどのように捉えているのだろうか。この問いに対し、同氏は次のように語った。

「レッドハットはIBMのグループ会社とはいえ、カルチャーがまったく異なります。IBMはルールが全世界で決まっています。対するレッドハットは自由闊達で、スタートアップカルチャーが脈々と流れており、ネットワークのように人がつながってエネルギーが生まれています」

  • レッドハット 代表取締役社長 三浦美穂氏

例えば、米国本社から指示が出た場合、IBMの社員はそれをうまく日本に適用する方法を考えようとする。しかし、レッドハットの社員は自分の意向と異なる内容だったら、堂々と異論・反論を唱える。「これには驚きました」と三浦氏。

ただし、レッドハットの社員はワガママを通しているのではなく、「なぜ、指示に従いたくないか」を社長に直訴し、議論を交わすことで解決策を見出している。この傾向は開発部門の人に顕著だそうで、コミュニティで議論を重ねながらソフトウェアを構築していく「オープンソースウェイ」が社内でも生きているといえる。

また、三浦氏は「買収されたことで、レッドハットのお客様はIBMに飲み込まれるのではないかと心配していらっしゃいました。社員も警戒していたようです。しかし、独立性と中立性があるレッドハットのカルチャーは尊重されています」と語る。

その一方で、日本の顧客からは「両社のシナジーが出ていない」という声も聞くことから、「両社がうまく協調して提案できるよう、進めているところです」と、三浦氏は話していた。

レッドハットで発揮できるIBMで培ったスキルとは

では、両社のシナジーの醸成に向けて、三浦氏はこれまでIBMで培ってきたどのようなスキルを発揮できるのだろうか。同氏はIBMでソフトウェアビジネス、パートナービジネスに貢献してきたが、そこで得たスキルを以下のような形で生かしていくという。

「営業は自社のプロダクトを愛しているので、ソフトウェアの機能を説明しがちです。エンジニアを相手にするLinuxビジネスでは、この方法でもは効果的でした。OpenShiftやAnsibleの販売ではこの手は利きません。OpenShiftやAnsibleがビジネスにどう貢献するか、LOBや経営層にわかりやすく説明する必要があります。人参やジャガイモについて詳しく説明するのではなく、どのようなおいしいカレーができるかを説明することを心がけるよう取り組んでいます」(三浦氏)

同社は、イノベーション促進し、ビジネスアジリティの加速を支援するコンサルティングサービス 「Red Hat Open Innovation Labs」を提供している。三浦氏は、同サービスが顧客に伴走する形でDX(デジタルトランスフォーメーション)することで評価を受けていることを挙げ、「Open Innovation Labsはお客様自身の変革をお手伝いするのですが、こうしたサービスが必要だと考えています」と話す。

前述した同社のオープンソースカルチャーはコンサルティングにおいても効果を発揮しているようだ。「レッドハットの社員はお客様にもズバッとモノを申します。東京海上日動火災保険や日立建機の研究所の役員の方からも、『対等の立場で指摘してくれるので助かった』とのお声をいただいています」と三浦氏。

「このようなビジネスをレッドハットができるということを広めると、結果として、お客様のモダナイゼーションやOpenShiftの活用につながると思います」と、三浦氏はいう。

チャレンジしたいのは「サポートの質の向上」

ビジネスが堅調ということもあり、代表取締役社長が交代しても、レッドハットの方針は大きく変わらない。とはいえ、三浦氏ならではのチャレンジも期待したいところだ。その点について、同氏は次のように説明する。

「レッドハットはソフトウェア・ライセンスではなく、オープンソースをベースに、機能・セキュリティを強化したソフトウェア製品のサポートを売っています。したがって、日本語での対応など、サポートのクオリティを高めることが大事だと思っています。ワークロードを効率化するため、サポートのリソースをインドや米国に集中していることから、日本のお客様にご苦労を掛けているという話も聞きます。日本市場の重要性、ユニーク性を本社に伝えるのは私の仕事なので、サポートの強化に向けても、積極的に取り組んでいきたいです」

また、レッドハットはプラットフォーム・ソフトウェアを提供しているので、それらを具体的に活用するソリューション提案の品質を上げて行くことも重要と語る。ヒトを相手にする提案のクオリティを上げることは簡単ではなく、レッドハット一社でできることには限りがある。ここで、三浦氏がIBM時代に培ってきたパートナーとのコネクションが生きてくる。

「Red Hat OpenShiftを導入する際、アジャイル開発や上流のコンサルティングが必要になります。また、社内にテクノロジストがいないとOpenShiftの良さが理解されず、メリットも出ません。OpenShiftを導入して、自社の新サービス市場展開までの期間が短縮されると、経営にもメリットがもたらされます。こうしたことをお客様に対しわかりやすい言葉でひもといていく必要がありますが、一社でできることには限界があります」(三浦氏)

三浦氏が前職でお世話になったパートナーは数十社あり、「これまでレッドハットとビジネスをやっていなかったけど、やってみようか」と言ってくれる経営層も出てきているとのこと。同氏は今まで築いてきたパートナーとの関係を維持して、新たな試みを広げていく構えだ。