岡山大学は12月26日、環境安定性の低さが課題だったペロブスカイト太陽電池の性能と安定性を向上させる添加剤分子として「ベンゾフェノン」を発見し、気温25℃・相対湿度30%の環境下において、同分子を添加しなかった場合の太陽電池のエネルギー変換効率は、300時間(12.5日)以内に初期値の30%しか維持できなかったのに対し、添加した場合は700時間(約29日)経過後も90%の性能を保持する高い安定性を実現したことを発表した。

同成果は、岡山大大学院 環境生命自然科学研究科のHytham Elbohy外国人客員研究員(日本学術振興会 外国人特別研究員、エジプト・Damietta University助教)、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域(工)の鈴木弘朗助教、同・西川亘助教、同・林靖彦教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials and Interfaces」に掲載された。

ペロブスカイト太陽電池は、すでに現行のシリコン太陽電池と同程度の発電効率(~25%)を示しており、かつ作製プロセスが容易かつ低コストな上に、薄くて軽くて曲げることも可能といった優れた点をいくつも持つ。そのため、窓を含めた建物の側面や、重量物を載せられない工場などの薄い屋根、さらには電柱などに巻き付けるといった、シリコン太陽電池では設置が不可能な場所での利用も期待できることから、太陽光発電の利用をさらに促進できるとして期待されている。

しかし、空気中の水分と反応することで容易に性能が低下してしまうという欠点があり、耐環境性能を向上できないでいる点が大きな課題だった。そこで研究チームは今回、低分子添加剤のベンゾフェノンが、ペロブスカイト太陽電池の性能と安定性に及ぼす影響を調べたという。

ペロブスカイト太陽電池は、光吸収層に「メチルアンモニウムヨウ化鉛」(MAPbI3)や「ホルムアミジンヨウ化鉛」(FAPbI3)などの有機無機ペロブスカイト材料が用いられている。今回の研究では、FAPbI3のペロブスカイト前駆体溶液にベンゾフェノンが導入され、「酸化インジウムスズ/ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸/ベンゾフェノン:FAPbI3/フェニルC61酪酸メチルエステル/バソクプロイン/銀」という積層構造を持つペロブスカイト太陽電池が作製された。

2mg/mLの最適濃度でベンゾフェノンを添加することで、太陽電池の出力特性(電流‐電圧特性)に現れるヒステリシスを抑制する(ヒステリシスが小さい方が高性能)と同時に、エネルギー変換効率(PCE)の値をベンゾフェノン添加無しの13.12%から18.84%へと大きく向上させることにも成功したという。さらに、ベンゾフェノンが添加されたペロブスカイト太陽電池は、相対湿度30%の大気中、25℃で700時間保存した後も、初期PCEの90%程度を維持することも確認されたとのこと。一方で対照的に、ベンゾフェノンを添加しなかった場合、PCEは急速な劣化を示し、同じ条件下で300時間以内に初期値の30%しか維持できなかったとする。

  • (a)ペロブスカイト太陽電池の模式図。(b・c)添加材(b)ありと(c)なしの場合のペロブスカイト太陽電池の出力特性。(d)電力変換効率(PCE)の劣化特性

    (a)ペロブスカイト太陽電池の模式図。(b・c)添加材(b)ありと(c)なしの場合のペロブスカイト太陽電池の出力特性。(d)電力変換効率(PCE)の劣化特性(出所:岡山大Webサイト)

次に、ベンゾフェノンの添加がペロブスカイト薄膜の表面形状と結晶性にどのような影響を与えるのかが調べられた。走査型電子顕微鏡を用いて、ベンゾフェノンを添加したペロブスカイト薄膜と添加しなかったものが比較された。ベンゾフェノンを添加しなかった場合は、太陽電池の性能を阻害する多数の結晶粒界(GB)が観測されたとのこと。一方で、2mg/mLのベンゾフェノンを添加した場合は、結晶が大きくGBの少ない、より滑らかで緻密なペロブスカイト薄膜が得られたといい、この膜質の向上により、太陽電池の性能と環境安定性が向上したことが考えられるとしている。

  • (a・b)添加材(a)ありと(b)なしの場合のペロブスカイト薄膜表面のSEM像。(c)α相およびδ相のFAPbI3の結晶構造の模式図。(d)添加剤ベンゾフェノンがペロブスカイト結晶に及ぼす影響の模式図

    (a・b)添加材(a)ありと(b)なしの場合のペロブスカイト薄膜表面のSEM像。(c)α相およびδ相のFAPbI3の結晶構造の模式図。(d)添加剤ベンゾフェノンがペロブスカイト結晶に及ぼす影響の模式図(出所:岡山大Webサイト)

またX線回折による構造解析から、ベンゾフェノンの添加によって光に対して不安定なδ相から、安定なα相FAPbI3への構造変化が促進されたことも解明された。このメカニズムとして、酸素ドナーであるルイス塩基を有するベンゾフェノン分子と、FAPbI3中のPb2+およびFA+の分子間相互作用によるものであると考えているという。これにより、励起キャリアのトラップによる再結合が効果的に抑制され、性能と安定性が向上したことが考えられるという。これらの結果から、ベンゾフェノン分子はペロブスカイト太陽電池の性能と環境安定性を向上させる有望な添加剤であることが示されたとした。

研究チームは、今回の研究でペロブスカイト太陽電池の電力変換効率と耐環境性を向上できたことは、再生可能エネルギー技術を前進させるだけでなく、広い範囲の社会的課題の解決に貢献するとしている。