日本ゼオン、名古屋大学(名大)、フレンドマイクローブの3者は12月26日、カーボンナノチューブ(CNT)を微生物によって効率的に分解する、環境バイオレメディエーション的手法を開発したと共同で発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の堀克敏教授、日本ゼオン、フレンドマイクローブの共同研究チームによるもの。詳細は、微生物に関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Microbiology」に掲載された。
CNTは、原子1層分の厚みであり、炭素原子が六角形の格子状に配列して構成される2次元物質「グラフェン」をチューブ構造にしたものだ。その直径は、名称が示すとおりにナノメートル単位で、非常に強い力学的特性、優れた熱伝導率、特異な電気的特性などを有する。これらの特性から、材料科学、ナノテクノロジー、電子工学など多岐にわたる分野ですでに応用されているほか、その優れた引っ張り強度から、宇宙(軌道)エレベーターのケーブルに利用できる可能性のあることが提唱されるなど、さらなる応用も期待されている。
しかしその一方で、ヒトの健康や生態系に対する潜在的なリスクも懸念されていて、CNTは針状の構造を持つことから、体内に吸い込んでしまうと中皮腫や肺がんなどの健康問題を引き起こす危険性がある。また、植物・動物・微生物に対する毒性も報告されている。
CNTは生体内で安全に分解されるのが望ましいが、これまでの研究によれば、ヘム酵素「ホースラディッシュペルオキシダーゼ」(HRP)などを用いることで分解されることが報告されているものの、それらの分解過程は実際には「フェントン反応」によるものであり、酵素反応によるものではないことが確認されている。そこで研究チームは今回その知見をもとに、新しいCNTのバイオ分解技術の開発を試みたという。
フェントン反応は、過酸化水素の分解を触媒する鉄(II)によって生じる高反応性の「ヒドロキシルラジカル」を生成する化学反応で、有機物の酸化分解や有害物質の無害化に利用されている。また、Shewanella属の細菌は、無酸素条件下で鉄(III)を鉄(II)に還元し、有酸素条件下で酸素を過酸化水素に還元することで、フェントン反応を効率的に誘導する能力を有する。研究チームによると、これをCNTの分解に応用できる可能性があるが、Shewanella属がCNTに耐性があるのか、またフェントン反応がCNTを分解するのに十分な期間続くかについては、まったく知見がなかったという。
今回の研究では、30μg/mLの酸素ドープ単層CNT(O-SWCNT)と、10mMのFe(III)クエン酸塩を含む条件下で、21時間の無酸素と3時間の有酸素のサイクルが行われた。その結果、90日間でO-SWCNTの56.3%が分解されることが確認されたとする。この結果は、Shewanella属によるフェントン反応が、幅広い条件下でのCNT分解に応用可能であることを示唆しており、CNTの廃棄物処理や環境バイオレメディエーション(生物学的プロセスを利用して、汚染された土壌や水の浄化を行う技術)における新たな方法の開発に寄与することが考えられるとする。
今回の研究により、環境中に広く存在する細菌を利用して、CNTを安全かつ持続可能な方法で分解する新たな可能性が開かれた。研究チームはこれらの成果について、廃棄物処理技術の改善、環境汚染の軽減、そして長期的にはヒトと生態系の健康へのリスクを減少させる道を提供するとしたうえで、ナノテクノロジーの安全な利用と持続可能な発展にとって、今回の成果が重要なステップとなるだろうとしている。